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放射線の発生

1.原子の構造と同位体

原子 物質を構成する原子は、中心に原子核があり、そのまわりに電子が分布している。原子核は核子 (陽子と中性子)からできている。陽子は正の電荷を持っており、電子はそれと絶対値が等しい負の電荷を持っている。中性子は電気を帯びていない。原子核の中の陽子の数とまわりの電子の数は等しいので、原子は全体として中性である。
 原子核の中の陽子の数を原子番号という。各元素の原子番号は、元素の周期表を参照されたい。

同位体(同位元素 ) 原子核の中の陽子の数が等しく中性子の数が異なる原子を、互いに同位体 (同位元素)であるという。同位体の原子番号はすべて同じである。同位体は、互いにほとんど同じ化学的性質を持っている。というのは、原子の性質は電子で決まっており、電子の数は陽子の数に等しいからである。
 陽子と中性子の質量はほとんど等しく約 1.67 × 10-27kg で、電子の質量はその約 1800 分の 1 である。したがって、原子の質量は陽子と中性子の質量の和にほぼ等しい。このため、同位体は質量で区別することができる。原子核内の陽子の数と中性子の数の和を質量数という。原子核に注目して同位体を区別するとき、核種という。言葉の使い分けは厳密に行われているわけではないが、通常、同位元素は電子も含めた同位体の原子、あるいはそのマクロな集合の意味に使い、核種は原子核のみに注目するときに使い、同位体はその両方の場合に使う。
 同位体を記号で表すときは、元素記号の左下に原子番号を、左上に質量数を書く。ただし原子番号は元素記号からわかるので、省略可能である。
 ( 例)I-131(ヨウ素131): 13153I または 131I
    Cs-137(セシウム137): 13755Cs または 137Cs
 なお、原子量は、原子の質量の原子質量単位(12C 原子 1 個の質量の 1/12)比(質量数に近い値)の、自然界での同位体の存在比についての平均値である。

2.原子核崩壊(壊変)と放射線

 同位体には安定なもの(安定同位体)と、不安定なもの(放射性同位体)がある。安定同位体はいつまでも変化しないが、放射性同位体の原子核は自然に放射線を出して別の核種になる。これを原子核崩壊 (壊変)という。公式文書や『理科年表』では壊変(disintegration )が使われているが、ここでは崩壊(decay)と表現する。原子核崩壊で生じる新たな核種は安定核種である場合が多いが、引き続き放射性核種である場合もある。4 系列が知られている自然放射能の崩壊系列では、10 種類以上の放射性核種が系列をなしている。
 原子核崩壊が起きると α(アルファ)線、β(ベータ)線、γ(ガンマ) 線等の放射線が放出される。人工的につくられるX線や、原子核反応や自発核分裂の際に出てくる中性子線も放射線に含めるのが普通である。

α 崩壊 α 線は放射性同位体の原子核から放出されるヘリウム 42He の原子核である。放射性核種が、α 線を放出して原子番号が 2 だけ小さく質量数が 4 だけ小さい別の核種になることを、α 崩壊という。放出される α 線のエネルギーは、崩壊前後の原子核のエネルギーの差に等しい。
 ( 例)23892U → 23890Th + α( α は α 線を表す)

β 崩壊 β 線は電子である。電子は原子核の中には存在しないが、放射性核種の中で中性子が自然に陽子に変わるときに、反ニュートリノとともに新たに発生して放出される。原子核がこのような過程で原子番号が1だけ大きく質量数は変わらない別の核種になることを、β 崩壊という。放出される β 線と反ニュートリノのエネルギーの和は、崩壊前後の原子核のエネルギーの差に等しい。しかし、β 線と反ニュートリノへのエネルギーの分配のされ方はさまざまなので、β 線のエネルギーだけを見ると連続スペクトルであり決まっていない。その分布の最大エネルギーが、原子核のエネルギー差に等しい。
 ( 例)13755Cs → 13756Ba + β +
    (β は β 線を、 は反ニュートリノを表す)
 逆に陽子が自然に中性子に変わる放射性同位体もあり、そのときには陽電子(電子の反粒子で、正の電荷を持っている )とニュートリノが発生して放出され、原子核は原子番号1だけ小さく質量数は変わらない別の核種になる。これも β 崩壊であるが、とくに β プラス崩壊と呼ばれることもある。
 ( 例)2211Na → 2211Ne + β++ + ν
    (β++ は β プラス線(陽電子)を、ν はニュートリノを表す)

γ 崩壊 γ 線は波長の短い(エネルギーが高い)電磁波である。γ 線は原子核の中には存在しないが、α 崩壊や β 崩壊直後の新しい核種は通常、励起状態にあることが多く、それが安定な状態になるときに発生して放出される。このときは原子番号も質量数も変化しない。このため γ 崩壊(γ-decay)とはいうが、γ 壊変(γ-disintegration )とはいわないのが普通である。
 ( 例)137m56Ba → 13756Ba + γ( γ は γ 線を表す)
 この例の 137m56Ba は、β 崩壊の例を挙げた 137Cs の β 崩壊の途中(β 線放出直後)に生じる 137Ba の原子核の準安定状態(励起状態)である。すなわち、例に挙げた β 崩壊で 13755Cs が 13756Ba になるまでの間には、式に書かれている β 線と反ニュートリノだけでなく、γ 線も放出される。

原子核反応 原子核に中性子や γ 線が衝突したり原子核同士が衝突したりすると、反応を起こして、別の放射性核種になったり、分裂して 2 個の放射性核種と中性子ができたりする。これを原子核反応(分裂する場合を核分裂)という。原子力発電は、この原子核反応で解放されるエネルギーを利用する。
 ( 例)235U + n → 140Xe + 94Sr + 2n( n は中性子を表す)

X 線の発生 X 線は原子核の外の電子の働きで発生する。発生の機構には 2 種類ある。ひとつは高エネルギーの電子などの荷電粒子が進行方向を曲げられるときに発生する。診療用の X 線発生装置では、電子を加速して金属ターゲットに衝突させ、電子が金属の原子核の近くで急に曲げられるときに出る X 線を使う。これを制動放射 X 線という。どの程度曲げられるかは電子がどれほど原子核に近づくかで違うので、さまざまなエネルギーの連続スペクトルの X 線が出る。フォトンファクトリーや SPring8 のような大型研究施設では、エネルギーの決まった高エネルギー電子の進行方向を磁場で曲げることにより、単色 (線スペクトル)の X 線を得る。これをシンクロトロン放射(光)あるいは単に放射光という。
 もう 1 つは、ターゲット金属の原子のエネルギーが低い内殻準位にある電子がはじき飛ばされた直後に、エネルギーが高い準位にある電子が空いた準位を埋めるときに X 線が出る。この X 線のエネルギーは準位間のエネルギー差に等しく(線スペクトル )、物質によって決まっている。これを特性 X 線という。診療用 X 線装置からの X 線にも特性 X 線は含まれている。

 

 【兵頭俊夫】
( 理科年表 2012年版(平成 24 年版)震災特集より )

 

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