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暦部「明るい食連星の推算極小」をくわしく解説!

食連星とは


 2 つの恒星がその共通重心のまわりを公転しあっている天体を「連星系」という。連星系のうち、 2 つの星がなんらかの相互作用を引き起こすほどに接近しているもの、または接触しているものをとくに「近接連星系」と呼んでいる。このうち地球から見て、片方の星が相手の星を隠して、いわゆる食現象を起こすものを「食連星」という 「食変光星」ともいう )。変光星総合カタログ < GCVS > 第 4 版には、 5022 個の食連星が登録されている。

 

食連星の主極小


 連星系のうち明るい方の星を「主星」、暗い方の星を「伴星」という。地球から観測して、伴星が主星の手前を通過して起きる食を「主極小」、反対に主星が伴星を隠して起きる食を「副極小」という。本編では、 10 個の食連星について、主極小の予報時刻を中央標準時で示している。それぞれの星について、観察しやすい季節から毎月 2 回の主極小を選定している。基本的には夜間、それもなるべく一般の方が観察しやすい午前 0 時までの時刻を優先的に選んでいる。また、ほぼ同時刻に主極小が起こる場合には、より高度が高い方を選択している。


 なお、主極小の予報時刻は、次式で計算することができる。


主極小予報時刻 = 元紀 + 公転周期 × 公転回数 1 )



 ここで元紀とは、過去において観測された主極小の時刻で、つまり基準となる時刻である。公転回数は整数値である。実際の計算は、日心時刻 太陽中心での時刻で計算している。これは、星からの光が地球に届く時間が時期によって異なるので、それを補正するためである。

  本編でたとえば、主極小 20 h というのは、 19 時 30 分から 20 時 30 分の間に主極小の中央があるという意味なので、実際の観察はなるべく長時間行うことが望ましい。

 

公転周期は変化する


 さて近接連星系の多くは、公転周期がわずかではあるが、突発的に変化することが知られている。本編に掲載している食連星の場合も例外ではない。その理由として、片方の星から相手の星へのガスの移動が以前は考えられていたが、最近では星の磁場の活動の影響を考える学説が多く提唱されている。実のところ公転周期変化の詳細なメカニズムは不明のままである。ともあれ主極小時刻を正確に予報するためには 1式の元紀や公転周期については、常に新しい数値が必要となる。本編に掲載する極小時刻も、毎年常に新しい数値を採用して計算している。本編では、 5022 個の食連星から 10 個の食連星を選択している。その選定理由は以下である。


1. 明るい双眼鏡などでも観察しやすい。 β Per は肉眼でも観察可能 )
2. 公転周期が短い特定の期間内で起きる主極小の回数が多く、観察しやすい時刻や高度のものを選択しやすい。また長くても一晩で食全体が観察できる )
3. 変光範囲が大きい食がわかりやすく観察しやすい )

 

食連星を観測する意義


 食連星は、その明るさの変化と、スペクトル観測のデータをあわせることにより、星の質量、半径、光度、温度など基本的な物理量を決定することができるので、天体物理学上たいへん重要な位置を占めている。また、実際に観測されて決定された主極小の時刻は、公転周期変化の原因を探るうえでも貴重なデータとなる。このため、世界中で食連星の観測が行われており、多くのアマチュアも参画している分野である。読者の方もぜひチャレンジされてはいかがだろうか。


【鳴沢真也 西はりま天文台(2006年11月)】




食連星の光度曲線の例 U CrB の場合 )






実際に観測された主極小の光度曲線

RZ Cas の場合。西はりま天文台 60 cm 望遠鏡を用いた光電側光観測による。縦軸の 1 目盛りは、0.1 日、横軸の 1 目盛りは、0.05 等に相当する。

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