天文部「太陽内部の構造」をくわしく解説!
太陽の内部は直接調べられないから、理科年表の天 20 ( 94 ) ページにある「太陽内部の構造」という表 (以下の表 1 と同じもの) は、推定の結果ということになる。ここでは、この推定の方法、結果、検証の 3 点を説明する。
太陽内部の構造を推定するにあたっての要点は 3 つである。第一は、太陽を物理学の枠組みの中で捉えるということである。温度や圧力、元素組成といった量の分布を、物理法則に則って決定することで、太陽のモデルを構築することになる。第二は、太陽が生まれてから現在に至るまでの経過をたどるということである。そして第三は、構築されるモデルが、現在の太陽の姿 (質量、半径、明るさ、表面の元素組成、年齢) を再現するようにするということである。このような手続きで構築された太陽モデルを、標準太陽モデルと呼ぶ。表 1 は、代表的な標準太陽モデルの構造を示している。
(Bahcall and Pinsonneault: Rev. Mod. Phys., 67, 781, 1995)
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表 1 に示された構造をみると、内部にいくほど高温、高圧、高密度である。とくに中心では、温度約 1600 万度、密度約 156 g/cc、そして元素組成は、質量比でいって水素が約 33 %(残りはほぼヘリウム )となっている。このような環境では、水素が核融合によってヘリウムに変換され、エネルギーが解放される。これが太陽のエネルギー源である。核融合反応が起こるのは、中心からせいぜい半径 30 % ぐらいまでの領域で、そこからエネルギーは (中心から半径約 70 % までは放射で、外側の約 30 % では対流で)外へと運ばれる(図 1 )。なお誕生時(約 46 億年前)の太陽では、水素が約 70 % を占めていたという計算になるので、現在の太陽は中心で約半分の水素を消費したことになる。
図 1 太陽の内部構造の模式図 |
標準太陽モデルは、ニュートリノ実験、日震学の 2 つの方法で検証されている。
太陽中心部での核融合反応に伴い、ニュートリノと呼ばれる素粒子が発生する。これを地球で捕らえるのが太陽ニュートリノ実験である。以前は、実験結果が標準太陽モデルの予測値の約半分しかないことが大きな問題となっていた (太陽ニュートリノ問題 )。しかし最近になって、日本のスーパーカミオカンデやカナダの SNO 実験の結果により、ニュートリノの種類が飛来途中で変わる現象 (ニュートリノ振動)が実験的に確認されたことで、この問題は解決されたと考えられている。
一方、太陽表面では周期が約 5 分の微弱な振動(5 分振動)が観測されており、太陽の内部深くにまで伝わっていると考えられている。これを利用して太陽の内部を探るのが、日震学の手法である。図 2 は、音速分布(の二乗)について、標準太陽モデルと日震学で決まった現実の太陽の相対差を示したものである。全体的に差は 0.5 % 以下と極めて小さいので、標準太陽モデルの正しさが、おおよそ確認されたといえる。とはいえ、このわずかな差の原因を究明する努力も続けられている。一方で日震学では、太陽内部の自転角速度分布も決定されているが、これを説明するような (非球対称な)太陽モデルの構築も今後の課題である。
【高田将郎 東京大学(2006年11月)】
図 2 現実の太陽と標準太陽モデルの音速分布の二乗の差。横軸は太陽半径で規格化した太陽中心からの距離
(Kosovichev A. G., et al. 1997, Solar Physics, vol.170, No.1, pp.43-61 (c) 1997 Kluwer Academic Publishers. ) |