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天文部「惑星表」をくわしく解説!

最新の理解


 水 ・ 金 ・ 地 ・ 火 ・ 木 ・ 土 ・ 天 ・ 海 ・ 冥の 9 惑星2006 年 8 月 24 日以来、冥王星は惑星でなくなってしまった と太陽からなる惑星系における惑星の運動は過去 40 億年間安定であったし、将来少なくとも 50 億年ほどは安定に推移する。これが最新の数値計算による結論である。これは 5 外惑星 500 万年の計算から実質的に始まった惑星系長時間計算レースに決着をつけたものである。計算時間が太陽系の年齢に達したところでけりがついた。これで話は済んだのではなく問題は残っている。ひとつは数値計算への不信。次は惑星系の安定性のよってきたる由縁、また惑星以外の天体を含めた太陽系の安定性、さらに、太陽系外惑星系の安定性との関係である。ここでは最初の 2 つについて解説する。


不 信


 まず、どのような数値計算であったか説明する。太陽と 9 個の惑星を入れたニュートンの運動方程式を数値積分する。過去に向かって 40 億年、未来に向かって 50 億年、いずれの計算においても、太陽まわりの9個の惑星の運動は、ある程度変動するけれども、どれかの離心率が大きくなって他の惑星軌道と交差したり、軌道半長径が次第に変化して、他の惑星と近接遭遇したりすることはなかった。シンプレクティック積分法という精度のよい積分法を使った。得られた惑星の運動の一部を図に示そう。上段は内惑星 水金地火 )、下段は外惑星木土天海冥 )の軌道で、左が最初の 2000 万年間の軌道の動き、右が 50 億年後の 2000 万年間の軌道の動きである。 50 億年経っても軌道がほとんど変わらないことがわかる。

図 1 軌道の長期の動き。上 2 枚は内惑星の軌道、下 2 枚は外惑星の軌道。左 2 枚は、計算の始めから 2000 万年間の惑星の軌道、右 2 枚は、 50 億年後の 2000 万年間の惑星の軌道。線で結ぶと煩雑になるので、適当に間引きして惑星の位置をプロットしてある。 50 億年経っても惑星の動く範囲がほとんど変化しないことが見て取れる。


 しかし、いくつか不信感は残った。相対論的効果が入っていない。ガス抵抗などの非重力効果が入っていない。それぞれ小さな効果であるが、それが平均してゼロになるのか、積み重なるのかわからない。リャプノフ時間の問題もある。ほんの少し初期状態の異なる2つの太陽系の運動を追いかけたとき、状態の違いが e= 2.718 ...倍に拡大するまでの時間を太陽系のリャプノフ時間という。太陽系のリャプノフ時間は 400 万年、これより長い計算は誤差が大きくなって無意味という意見がある。一方、本当の安定性はリャプノフ時間よりはるかに長いという研究もあり、係争中の問題である。ハミルトン系にはアーノルド拡散という現象があり、角運動量などが長い時間かけて拡散的に変化する。惑星系はアーノルド拡散でいずれはついには壊れてしまうことが考えられる。


安定のためのメカニズム


 上で述べたように太陽系の惑星は互いに近づかない。この安定性はどのように維持されているのか。惑星間の距離はボーデの法則にしたがい、太陽から遠ざかるにつれて広くなる。ところが、力学を考慮すると、別の様相が浮かびあがる。相互ヒル半径をつぎのように導入する。

  midii 番目の天体の質量と太陽からの距離である。相互ヒル半径は i 番目と i + 1 番目の天体の力学的勢力範囲の平均と思ってよい。この勢力範囲を単位にして惑星間の距離を測ると、つぎの表のようになる。

 この表に太陽系の安定性機構の重要なものが見える。複数の惑星が自分達で安定性を決めている場合、惑星は 10 相互ヒル半径程度の距離で並ぶ。木星以遠の惑星は自分達で距離を決めていることがわかる。一方、内惑星の距離は 10 相互ヒル半径よりはるかに大きい。これは木星や土星の影響を受けていることを示す。数値計算によると、相互距離が 10 相互ヒル半径程度だと、内惑星は不安定性を引き起こし、互いに衝突してしまう。そのような激しい過程を経て数を減らし、 20 とか 30 相互ヒル半径離れることで内惑星は安定を保っていると理解できる。

表 1 惑星間距離
惑星
天文単位
相互ヒル半径単位
水星
   
  0.3362 63.4
金星
   
  0.2767 26.25
地球
   
  0.5237 39.95
火星
   
  3.6806 16.02
木星
   
  4.3777 7.95
土星
   
  9.6474 13.98
天王星
   
  10.8743 13.93
海王星
   
  9.1605 10.24
冥王星
   
 

 

 

 安定性の維持機構は他にいくつもある。 2 つあるいは 3 つの惑星が関係する機構で重要なものが「共鳴」である。共鳴は不安定性の要因でもあるが、安定性の要因ともなる。惑星が連星になれば安定である。このとき両者は 1 : 1 平均運動共鳴関係にある。また、海王星と冥王星は 3 : 2 の平均運動共鳴関係にある。冥王星軌道の近日点は海王星軌道より内側にある。冥王星軌道の近日点と海王星軌道の遠日点の方向はほぼ一致し、冥王星の近日点付近で両者が近づいたときでも距離が大きくなるように調節されている。

 金星と地球は共鳴関係にない。この 2 つは、 100 万年単位の短周期では、軌道要素は逆相関で変化し、億年単位の長周期では、正相関で変化する。つまり短周期では反発し合い、長周期では外からの摂動を分け合っている。また内惑星は外惑星からの摂動を分配して受けることにより不安定性を抑えている。このように、わが惑星系においては、いろいろなレベルでの安定性が絡み合って全体が長期間安定に保たれている。

【谷川清隆 国立天文台理論研究部(2006年11月)】

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