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天文部「夜天光」をくわしく解説!

 百聞は一見に如かずですので、図 1 にハワイ島マウナケア山頂で撮影した黄道光を示します。黄道光の輝度は天の川と比較しても淡く、空の明るい環境で観察することは難しいですが、マウナケア観測所のような場所では眼視でも確認することができます。


図 1 ハワイ島マウナケア山頂で撮影した夕方黄道光
( WIZARD による観測 )


 黄道光の存在が最初に科学的に報告されたのは天文学者カッシーニ ( G. W. Cassini ) によるもので 1683 年に出版された論文に取り上げられています。カッシーニが描いた黄道光のスケッチは正確であり、その正体として太陽を中心とした土星の輪のようなものであろうと書かれています。これは発表された時代を考慮すると正に慧眼です。黄道光は惑星間の空間に存在する固体の微粒子 惑星間塵が太陽光を散乱することにより見られる現象で、黄道面を中心として広く分布しています。この惑星間塵が太陽光を前方散乱する部分が日没後の西の空や明け方の東の空に見られるコーン上の黄道光 ( 図 1 ) となります。黄道光の輝度は太陽方向から離れるに従い小さくなりますが、反太陽方向に弱いピークを持ちます。これは対日照 Gegenscheinと呼ばれる現象で、好条件に恵まれれば肉眼でも観察可能です。対日照は比較的大きなサイズの惑星間塵が効率良く太陽光を反射するために生じる現象です。惑星間塵は太陽からの放射を受けるために、徐々に角運動量を失いながら数千年から数百万年かけて太陽に落下します。この時間は太陽系の年齢よりは何桁も小さいですから現在観測されている惑星間塵は、太陽系が生まれた時に存在した原始惑星系円盤の名残ではなく、比較的最近供給された物と考えられています。また我々の太陽系を外から観測した場合には、黄道光による赤外線放射は惑星などと比較しても大きな輝度を持つため、太陽系の黄道光を理解することは今後の系外惑星の探査にも重要な情報であると認識され始めています。

  黄道光の可視光観測は 1960 年代に盛んに行われました。この当時の観測は空間分解能が低いものであったため、黄道光のように非常に淡く拡がり、その輝度も明るい星を均した物よりも小さいため、データを解析することが非常に困難でした。 1980 年代に入ると赤外線天文観測衛星 IRAS が惑星間塵を赤外線放射で観測しました。地球近傍の惑星間塵は 10 μm 付近に放射のピークを持ち、この波長では星の輝度と比較しても大きな輝度を持つため高精度な情報をもたらしました。 IRAS の観測結果により、従来はなめらかな空間構造を持つと考えられてきていた惑星間塵の雲の中に多くの微細な構造が発見されました。それらの多くは短周期彗星の軌道に沿った物や、比較的最近衝突が起こった小惑星ファミリーの軌道に沿った物でした。これにより惑星間塵の起源の一部が解明されましたが、供給源に関する議論は現在でも続いています。我々は可視光での究極的な黄道光観測を目指して神戸大学と東京大学の共同により WIZARD と名付けた専用の観測装置を開発しました 図 2 )。 WIZARD は視野 180 度を一度にカバーできる超広角光学系と 8 メガ画素の液体窒素により冷却された CCD を搭載することで、淡く拡がった黄道光を詳細に観測できる性能を持っています。 WIZARD により黄道光と恒星を同時に観測しながら、個々の天体の明るさによる寄与を取り除くことができます。 WIZARD を用いた観測は、マウナケア山頂の屋外で続けており、強風下毎回凍えながらデータを集めています。この観測により、惑星間塵の地球付近での詳細な空間構造が明らかになりつつあり、太陽系内での固体微粒子の起源と振る舞いに新たな展開をもたらすものと期待しています。

【上野宗孝 東京大学(2006年11月)】

図 2 神戸大学・東京大学共同開発の黄道光観測超広視野カメラ WIZARD

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