天文部「食連星」をくわしく解説!
激変星(cataclysmic variable)とは白色矮星(主星)と普通の恒星 (伴星)からなる近接連星で、伴星の表面のガスが主星の重力に引かれて流れ込んでいるものである。このガスは直接主星に落ち込むのではなく、いったん主星の周りを回転する降着円盤を形成し、この円盤の中でゆっくりと主星に落ち込んでいく (図 1 左 )。非常によく似た系で、主星がブラックホールや中性子星のものもあるが、これらは X線で強く輝くため X線連星と呼ばれる。
図 1 ( 左)激変星の想像図。普通の星の表面のガスが白色矮星の方に落ち込んでいく。 その途中で降着円場を形成している。(右) 白色矮星の磁場が強い場合は、 その磁場に沿ってガスが降着していくため、降着円盤が一部、または全く形成できなくなる。 (右図は http://space-art.co.uk/ より転載 ) |
この激変星で、白色矮星の表面に降り積もったガスが核爆発を起こし急激に明るく輝く現象は新星と呼ばれる。これとは別に、通常は降着円盤内でガスがゆっくりと主星に落ち込んでいくために円盤内でガスが溜まり、密度がある一定の臨界値を超えると一気にたくさんのガスが落ち込む現象が起こることがある。この時、降着円盤の温度が急激にあがり、明るく輝くようになる。新星爆発では 8 等から 15 等(以上)も明るくなるが、降着円盤起源の増光は 2 等から 8 等くらいと新星よりも増光幅は小さい。そのため、この現象を起こす天体は矮新星と名付けられた。
矮新星では円盤内でガスが落ち込む率 (質量降着率)が低い状態(静穏状態)と高い状態 (爆発状態)が観測されるわけだが、伴星から降着円盤へガスが流れ込む率が大きい場合は、降着円盤は温度が高い状態で一定に保たれ、降着円盤での大きな明るさの変動は観測されない。こういう天体は、新星爆発を起こしたあとの状態と区別がほとんどつかず、新星状変光星と呼ばれる。また白色矮星の磁場が非常に強い (典型的には 10 メガガウス以上)場合は、その磁場に沿ってガスが白色矮星に流れ込むために、降着円盤の形成が阻害される (図 1 右 )。磁場が非常に強くて伴星の動きにまで影響を及ぼし、白色矮星の自転周期と伴星の公転周期が全く同期してしまうものがある。こういう天体は偏光が非常に強く観測されるためポーラー (polar)と呼ばれる。そこまで磁場は強くはないが、ガスが落ち込んでいく磁極が見えたり隠れたりすることによって白色矮星の自転の周期での変光が観測されるものを中間ポーラーと呼ぶ。
これら全ての激変星は、伴星から流れ込んだガスが白色矮星に降り積もっていくために必ず新星爆発を起こすと考えられる。しかし、それには数千年以上 (ガスが流れ込む率が低い系ではずっと長くなる )がかかると見積もられている。降着円盤起源の矮新星爆発はより頻繁に起こり、短いものでは数日に 1 度爆発するものもある(図 2 )。
実 視 等 級
|
|
ユリウス日 - 2450000 |
|
図 2 代表的な矮新星はくちょう座 SS(SS Cyg )の光度曲線。縦軸は実視等級で、 横軸はユリウス日。 4 等程度の増光を数十日程度の時間尺度で繰り返している。 |
降着円盤は激変星や X線連星だけでなく、原始惑星系や活動銀河中心核など宇宙で様々な天体に存在し、その活動性を引き起こすエンジンとなっている。激変星中の降着円盤は変動の時間尺度が適当で、降着円盤の基礎的な物理を調べるために非常に都合のよい系である。また伴星は K型晩期から M型くらいの星 (さらには褐色矮星と言われているものもある) で、こういう晩期型星の内部構造の研究、さらに比較的低質量星の連星の進化の最終段階の研究、磁場に沿ったプラズマ降着流の研究など、激変星の研究には様々な面がある。
【野上大作 京都大学大学院(2008年 4月)】