天文部「銀河」をくわしく解説!
宇宙の中で多くの銀河は銀河団・銀河群のような集団を成して存在していることが知られている。我々の銀河系も例外ではなく、 M 31 、 M 33 などの銀河とともに形成している銀河群を局部銀河群と呼んでいる。本来は重力的に束縛されている系をもって銀河群とみなすべきであるが、束縛状態を判定するためには個々の銀河について位置、速度、質量などの情報が必要となり、これらの値 (とくに速度)を正確に求めることは大変難しい。そのため局部銀河群の重力ポテンシャルを仮定することによって、宇宙膨張速度と脱出速度が等しくなるような球殻
(zero-velocity sphere)の大きさを計算し、この球殻中に存在する銀河を局部銀河群銀河としている。この球殻の大きさは、仮定する重力ポテンシャルに依って変わるが、半径 1.2 ~ 1.8 Mpc 程度であり、局部銀河群銀河の数は約 40 個程度となる。図 1 に局部銀河群銀河の光度関数(光度のヒストグラム )を載せた。最近になってスローン ・ ディジタル ・ スカイサーベイ計画(SDSS)の広域掃天観測により、局部銀河群に所属すると考えられる表面輝度の低い矮小銀河が新たに数個発見されてきている。
図 1 局部銀河群銀河の B バンド光度関数(1998 年現在 )。 局部銀河群の重心から半径 1.2 Mpc(青縞)と半径 1.8 Mpc(黒線 )以内にある銀河を数えて光度関数を作成した。赤は近年 (1990 ~ 1998)になって発見されたものを表わす ( Grebel 1998 , astro-ph/9812443 より抜粋 ) |
局部銀河群の中での銀河の空間分布を示したのが図 2 である。多くの銀河は我々の銀河系または M 31 の周りに集中していることがわかる。これら大銀河のサブグループには、現在はガスを失い星生成活動が見られない矮小楕円体銀河が多く集まっている (大小マゼラン雲など例外もある )。一方、二大サブグループとは離れて、ポツポツと孤立して存在する銀河もいくつか存在している。そのような銀河の大部分は矮小不規則銀河であり、ガスを持ち現在も星生成活動を続けている。このように局部銀河群においては矮小銀河の住み分けが進んでいることがわかる。
図 2 局部銀河群銀河の三次元分布図。 渦状銀河(銀河系、 M 31 、 M 33)を白、矮小楕円体銀河をオレンジ、矮小不規則銀河を青、形態遷移中矮小銀河を緑で表わした ( Grebel 1998 , astro-ph/9812443 より抜粋 ) |
局部銀河群銀河は我々の近くに存在しているため、銀河に所属する星 1 つ 1 つを分解して観測することが可能である。そのため、セファイドや RRLyr 型変光星の観測を通じて、各銀河までの距離を比較的正確に求めることができる。また観測から得られた星の色-等級図 (HR 図)と恒星進化論モデルから計算される色-等級図 (HR 図)を比較することにより、銀河の星生成史を求めることも可能である。その結果 、どの銀河にも宇宙年齢に匹敵するような年齢を持つ星々が見られること (本当に “若い” 銀河は存在しないこと )、見かけが同じように見える矮小楕円体銀河でも銀河ごとに異なる複雑な星生成史を持っていること、などが明らかにされてきた。
また近傍に位置する局部銀河群銀河ならではこそ、銀河の真の姿をつぶさに観測することが可能である。たとえば M 31 には、銀河本体から南東方向に数 100 kpc に渡って星が淡く帯状に分布していることが最近発見され注目を集めている (アンドロメダ ・ ストリーム )。これは M 31 に落ち込んできた矮小銀河が M 31 の潮汐力で引き伸ばされた姿であろうと考えられている。このような銀河の衝突合体の痕跡と考えられる星の帯は、我々の銀河系にもいくつかあることが示唆されている。またマゼラン雲に端を発する中性水素ガスの帯 (マゼラニック ・ ストリーム)も古くからその存在が知られている。このように、衝突合体による銀河の成長過程を観測・検証するには局部銀河群は最適の場所であり、現在精力的に研究が進められている。
【小宮山裕 国立天文台ハワイ観測所(2006年11月)】