天文部「電波銀河およびクエーサー」をくわしく解説!
活動銀河中心核 ( AGN )
目で見える可視光線で宇宙を観測すれば、広がった天体『銀河』が数多く見つかります。数千 ~ 数万光年に広がって分布する星々の内部の核融合反応によってエネルギーが生じ、明るく輝くことができます。それに対し、銀河の中心部が可視光線で非常に明るく輝き、かつ、激しい時間変動も示す、活動銀河中心核 (AGN)と呼ばれる天体も存在します。太陽の 100 万倍以上の質量を持つ超巨大ブラックホールが存在し、そこに物質が落ち込む際に解放される重力エネルギーを放射に変換して、明るく輝いていると考えられています (図 1 )。
図 1 AGN の中心にある超巨大ブラックホールに物質 (ガス)が落ち込み、エネルギー放射される概念図。 |
ブラックホール( 中心の黒い丸)は、光さえも放出しない暗黒の天体ですので、望遠鏡で直接見ることはできません。しかし、ガスが、ブラックホールの重力によって引き寄せられると、重力エネルギー (位置エネルギーとも呼ばれる)を失い、非常に高速運動するようになります。そして、ガス同士の激しい衝突、摩擦の結果、ガスは非常に高温になり、紫外線から可視光線にかけて、非常に強い放射が放たれます。ガスは角運動量 (スピン)を持つため、図のように円盤状(降着円盤と呼ばれる )に落ち込んでいきます。強いエネルギー放射は、この降着円盤から来ています。ブラックホールの大きさ (シュワルツシルド半径)は質量に比例して大きくなり、太陽質量の 1000 万倍の超巨大ブラックホールの場合は、約 3000 万キロメートル、太陽と地球の距離の約 5 分の 1 になります。降着円盤はその何倍か外側から存在し始め、ブラックホールのどれくらい近くまで存在できるかは、ブラックホールの回転の度合いによります。また、降着円盤の近くには、激しく運動する電子が数多くつくられ、降着円盤からの紫外線を叩き上げることにより (逆コンプトン過程と呼ばれる )、非常に強いX線が放射されるというのも、 AGN の特徴です。
AGN の統一モデル
AGN の中心にある、物質を盛んに飲み込む超巨大ブラックホール、および降着円盤のさらに外側には、ドーナツ状 (トーラス状)に塵(ダスト)が分布すると考えられています (図 2 )。この塵のトーラスに対して、上方向から中心の超巨大ブラックホール、および降着円盤を見れば、塵に邪魔されずに放射を直接観測することができます。それに対し、横方向から見れば、超巨大ブラックホール周囲の降着円盤からの放射は、塵のトーラスに邪魔されて、可視光線では直接見ることができなくなります。前者を 1 型 AGN、後者を 2 型 AGN と呼びます。
図 2 ドーナツ状のガスや塵に囲まれた超巨大ブラックホール、および降着円盤。中心の円盤状の構造が、降着円盤を表わす。活動的で非常に強いエネルギー放射をしている超巨大ブラックホールの場合、内側の塵は溶けてガスになってしまい、塵は、一声 1000 億キロメートル程度(地球と太陽の距離の数 100 倍)より外側から分布し始めます。 |
クエーサー
塵のトーラスによって邪魔されておらず (1 型 )、中心の超巨大ブラックホール近くからの可視光線の放射が特に明るく観測される (我々の天の川銀河の 100 倍以上)AGN は、クエーサーと呼ばれます。星内部の核融合反応では、質量の約 0.5 % しか放射に変換することができませんが、 AGN の場合、落ち込む物質の質量の 10 % 以上を放射に換えることができます。したがって、星で輝く普通の銀河に比べて、 AGN は小さな領域から、非常に強い放射をつくり出すことができ、遠くにあっても明るくて見つかりやすいという特徴があります。最初のクエーサーは 1960 年代に発見されましたが、 1980 年代には赤方偏移が 4 を超えるものも見つかりました。当時、星で輝く普通の銀河は、赤方偏移が 1 より手前のものしか見つかっていなかったことを考えると、宇宙の遠くの天体を見つける目的に、非常に強力であったことがわかります。 2006 年 8 月現在で見つかっている最も遠いクエーサーの赤方偏移は 6.4 です。
明るい AGN 光度を説明するには、超巨大ブラックホールがより多くの物質を飲み込む必要があります。それには、より質量が大きくて重力が強い超巨大ブラックホールが必要です。赤方偏移 6 を超える宇宙初期(宇宙誕生後 10 億年以下) に見つかった明るいクエーサーの中には、超巨大ブラックホールの質量が太陽の数 10 億倍以上と見積もられるものもあります。宇宙誕生後このような短い時間で、大質量ブラックホールを理論的につくり出すことは容易ではなく、宇宙における超巨大ブラックホールの誕生、成長の過程に大きな制限を与えます。
電波銀河
クエーサーのような 1 型 AGN に比べて、超巨大ブラックホール近くからの放射が塵のトーラスによって隠されている 2 型 AGN は、見つけるのが難しくなります。しかし、ある種の AGN は、非常に強い電波放射を出すことが知られ( 図 3 )、明るい電波放射により、遠くにあっても見つけることが比較的簡単です。そのような (2 型)AGN は、電波銀河と呼ばれます。電波で非常に明るい AGN は、 AGN 全体の数 % と、数としては少ないのですが、その電波での明るさから来る見つけやすさにより、大きな注目を浴びてきました。
クエーサー(1 型 AGN) は、中心 AGN からの放射が非常に明るく、可視光線では、空間的に構造が分解できない点源として観測されます。ところが、電波銀河 (2 型 AGN)は、塵のトーラスによって AGN 放射がかなり遮断されているため、淡く広がった銀河からの放射が見つかります。 1990 年代初頭には、赤方偏移が 3 を超えるものも見つかりました。当時見つかっていた、星だけで輝く普通の銀河の赤方偏移は 1 より小さく、遠くまで見つかっていた電波銀河の観測を通して、宇宙初期の『銀河』の様子を研究するという手法も盛んに行われました。
1990 年代半ば以降、口径 8 ~ 10 メートルの大型望遠鏡が駆動し始め、赤方偏移 3 を超える、星だけで輝く普通の銀河も見つかるようになり、遠くの銀河を研究するという意味での電波銀河の役割は小さくなりつつあります。
【今西昌俊 国立天文台光赤外研究部(2006年11月)】
|
|
|