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天文部「宇宙の元素組成」をくわしく解説!

 元素とは物質の基本単位である原子の種類であり、水素や酸素、鉄など約 90 種が自然界において知られている。ビッグバン以来、宇宙の中では次第に重い元素が合成され、増加してきている。理科年表では、さまざまな天体についての組成の測定方法が包括的に解説されている。ここでは、太陽系および恒星の元素組成から、元素合成過程や天体現象についてどのようなことがわかるのか、例を挙げて説明する。




1.太陽系の元素組成と元素合成過程


 元素の種類は、原子核中に含まれる陽子の数で決定される。理科年表には、太陽系の元素組成の表が掲載されているが、ここでは組成を原子の質量数原子核中の陽子と中性子の数の和に対して示す 図 1 )。このほうが、後述する個々の元素合成過程の記録がより明確に見える場合があるからである。これらの組成は太陽表面から届く光の分光分析や、地球に落下した隕石の分析などから測定されたものである。

 


図 1 太陽系の元素組成

 

  一見してわかるとおり、水素とヘリウムの組成がずば抜けて高い ひと目盛がひと桁の違いであることに注意 )。これは、ビッグバンの際 宇宙誕生後の最初の数分間にこの 2 元素が合成されたことを反映している。

  それより重い元素の大半は、星の内部や超新星爆発の際に合成されたと考えられている。この描像が確立されたのは 1950 年代のことで、以来個々の元素合成過程、それぞれに対応する天体現象、および宇宙のなかでの重元素の蓄積について研究が進められてきた。炭素から先の元素では、酸素、ネオン、マグネシウム等、質量数が4の倍数となる元素の組成が高い。これはそれぞれの原子核がアルファ粒子 ヘリウムの原子核 = 質量数 4を捕獲して成長する過程が働いたことに対応している。さらに、鉄は周囲に比べてきわめて高い組成をもっている。これは、鉄はもっとも安定な原子核で、超新星爆発 とくに Ia 型で多量に放出されるためである。

 鉄族よりも重い元素は、原子核どうしの結合では合成されにくく、もっぱら原子核が中性子を捕獲する反応で成長する。そのなかで、特定の中性子数で原子核が安定になることが知られており、それに対応して組成も 3 つのピークをもつことが予想される。太陽系組成では、この 3 つのピークが少しずれた位置に 2 組表われている。これは中性子捕獲の反応経路が全く異なる 2 種類の反応が存在することを意味しており、一方は「遅い反応」 タイムスケールの長い反応で、星の内部でゆっくりと進行するものであり、他方は「速い」反応で、超新星のような爆発的な環境で一気に合成が進むものであると考えられている。


2.恒星の元素組成


 このように、太陽系の組成の分析によって、その起源となった原子核反応や対応天体について知ることができるが、太陽以外の恒星の組成を調べるとより直接的な情報が得られる。太陽近傍の恒星の多くは太陽によく似た組成をもっているが、なかには炭素以上の重元素の組成がかなり低いものもある。これらの星は、重元素の蓄積がまだ進んでいなかった宇宙の比較的初期に誕生し、現在まで生き残っている星と解釈されており、その組成から銀河の元素組成がどのように変化してきたのか調べることが可能になる。

 


図 2 銀河系円盤部の星のマグネシウムと鉄の組成化

 

 図 2 には、一例として、さまざまな恒星のマグネシウムと鉄の組成比を示した。横軸は重元素の代表として鉄の組成をとっており、大雑把にいうと左にいくほど宇宙の初期に誕生した星である。すると、宇宙の比較的初期に生まれた星ではマグネシウムの組成が相対的に高く、鉄組成が太陽の 10 分の 1 程度になったころからその比が低下してきたことがわかる。実は、マグネシウムは II 型超新星大質量星が一生の最期に起こす大爆発 で比較的多量に放出されるのに対し、鉄は Ia 型超新星 連星系に属す白色矮星が、伴星からの質量降着を経て起こす大爆発 から大量に放出されることがわかっている。図の結果は、宇宙初期には II 型超新星の影響が強く、やがて Ia 型超新星の寄与が大きくなってきたことを意味している。これは、それぞれの超新星が起こるまでの星の進化のタイムスケールの予測とも一致するものであり、天体現象と重元素蓄積の歴史がよく理解された例である。

 

【青木和光 国立天文台光赤外研究部(2006年11月)】

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