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生物部「食品の群別平均摂取量」をくわしく解説!

 食品の安全性を確保するためには、食品に由来する健康被害の種類と性質を知り、できるだけ健康被害を避けるよう、生産者から消費者、そして行政がそれぞれの立場で努力する必要がある。

  食品の摂取に関連する疾病には、栄養の過不足や偏りに伴う成長障害や生活習慣病もある。また、ある種のカビ毒の慢性的な摂取により発がんが強く疑われてもいる。しかし、毎年数多くの健康被害を引き起こしているのは、急性胃腸炎を主な症状とし、原因物質によっては麻痺や発疹を起こす、食中毒である。時には死に至ることもある。

  保健所によって食中毒と断定された事例は、食中毒統計として、厚生労働省により毎年集計されている 表 1 )。統計に上らない被害も多いのであるが、それでも原因物質の種類や経年の変化などは把握することができる。食中毒の原因物質は、大きく細菌、ウイルス、化学物質、自然毒、その他に分類される。それらのうち、細菌とウイルスが原因のほとんどを占め、化学物質による被害は、ヒスタミンを除くとごくわずかである。一方、毎年必ず死者を出すのが、ふぐ毒、貝毒などの動物性自然毒や、毒キノコや有毒植物などの植物性自然毒である。動物性自然毒には、元々藻類などが産生し魚介類の体内に蓄積するものも多いが、植物性自然毒には、植物自体の成分が多い。食品には、その原材料や取扱い方法により、汚染に注意すべき特有の微生物がある。たとえば、肉類は動物が生きているときに保有していた腸管由来の細菌に汚染されることがあり、魚介類は海水中に存在する腸炎ビブリオやノロウイルスを保有することがある。また、穀類や野菜には土壌由来の細菌が、また卵にはサルモネラが汚染している場合がある。それぞれの微生物の特性を知ることにより、食品ごとに適切な管理を行うことができる。「食品の群別平均摂取量」『理科年表平成 20 年版』掲載項目からは、穀類の摂取が減少し、緑黄色野菜や肉類の摂取が増えてきていることが読み取れる。食中毒の原因物質の変遷に影響する可能性もある。

表 1 平成 18 年 病因物質別月別食中毒発生状況
原 因 物 質
総 数
事件
患者
死者
総 数
1,491
39,026
6
細 菌
 サルモネラ属菌
 ぶどう球菌
 ボツリヌス菌
 腸炎ビブリオ
 腸管出血性大腸菌(VT産生)
 その他の病原大腸菌
 ウェルシュ菌
 セレウス菌
 エルシニア・エンテロコリチカ
 カンピロバクター・ジェジュニ/コリ
 ナグビブリオ
 レラ菌
 赤痢菌
 チフス菌
 ラチフスA菌
 その他の細菌
774
124
61
1
71
24
19
35
18

416


1


4
9,666
2,053
1,220
1
1,236
179
902
1,545
200

2,297


10


23
2
1





1








ウイルス
 ノロウイルス
 その他のウイルス

504
499
5
27,696
27,616
80


化学物質
15
172
自然毒
 植物性自然毒
 動物性自然毒
138
103
35
511
446
65
4
3
1
その他
7
23
不明
53
958
(厚生労働省ホームページより、一部抜粋)

 

 食品の安全性確保のために、近年、リスク分析の手法が取り入れられるようになった。リスク分析は、科学的な評価を行う「リスク評価」と対策手段を選択し実行する「リスク管理」、そして消費者を含むすべての関係者の間での双方向の情報・意見の交換を意味する「リスクコミュニケーション」から構成され 図 1 )、平成 15 年に施行された食品安全基本法にも盛り込まれた。なお、この法律に基づき、「リスク評価」を行う機関として、内閣府に食品安全委員会が設立された。食中毒に対応して調査や行政的措置を行うのも「リスク管理」の一部であり、また食品製造施設に取り入れられている HACCP システムも「リスク管理」の 1 つである。新たなリスク管理手段の効果を予測したり、食品添加物などが健康被害を起こさないように安全な基準値を設定したりすることは、「リスク評価」の役目である。これらの過程のすべてにおいて、透明性を確保し、誰が述べた意見でも適切であれば反映されるようなシステムを備えることが、「リスクコミュニケーション」の理念である。

春日文子 国立医薬品食品衛生研究所(2008年 5月)】


図 1 リスク分析の構成要素

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