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環境部「オゾンホール」をくわしく解説!

 そもそも大気中にはどれくらいのオゾンがあるか ? ある場所の上空にある全オゾンを集めても、一気圧の地上に持ってくるとその厚さは地球平均で 3 mm300 m atm-cm : ミリアトムセンチメートル しかない。オゾンは高度により濃度が著しく異なる。対流圏オゾン これは温室効果気体の仲間であるは少なく、ほとんどが成層圏、中でも高度 10 ~ 50 km 付近に集中している。この付近をオゾン層という。ピークは中緯度で 20 ~ 25 km である。オゾン量は一般に低緯度では少なく高緯度で多い。また高緯度地方では春に多く秋に少なくなる。オゾン層破壊が始まる前の平均的なオゾン量 の変化の幅は、緯度と季節を合わせて最小値が 220 m atm-cm 、最大値が 460 m atm-cm 程度であった。


 地球の生命がきわめて長い期間を費やしてつくり上げたオゾンを、地球の一生命である人類が壊しているのが、いま大きな問題となっているオゾン層破壊問題で、その破壊の道具がフロン クロロフルオロカーボン類ガスである。フロンは人類がつくり上げた合成物質で、自然界にはもともと存在しない。きわめて安定性が高く液化温度の低い化合物で、冷蔵庫やエアコンの冷媒、スプレーの噴射剤、あるいは IC の洗浄剤としてかつて大量に使用された。無味無臭で人体にも害がなく、唯一成層圏オゾンを破壊することを除けば、大変優れた物質である。フロンにはフロン 11 、フロン 12 など化学式の異なる数種類のタイプがある。



 ところがこの高い安定性のために、フロンはいつまでも分解されずに大気中を漂う。大気中に蓄積され成層圏に入り込んだフロンは、上部成層圏まで上昇すると、太陽の紫外線のために分解され、中の塩素が分離される。この塩素がオゾンの 3 個の酸素原子のうちの 1 個と結合して塩素酸化物になり、つぎに酸素原子と反応して塩素と酸素分子になる。この塩素がつぎのオゾンと反応する。このようにして、 1 個の塩素がたくさんのオゾンをつぎつぎと酸素分子に変えてしまう 触媒反応サイクル )



 また冬の極域の下部成層圏では、極域成層圏雲が発生する。この雲の粒子の表面で化学反応が起こり、塩素化合物から塩素ガスが発生する。春になって極域に紫外線が照射すると、塩素ガスは分解し上部成層圏とは異なるタイプの触媒反応サイクルをつくってオゾンを破壊する。気温が上昇して極域成層圏雲が消滅すると、塩素が再び比較的安定な化合物となり、オゾン破壊は停止する。このようにして南極域のオゾンホールは、冬から春にかけて出現し、夏に消滅する季節変化を繰り返している。



 フロンがオゾン層を破壊するということがいわれるようになっても、実際にオゾンが減っているという証拠がないうちはあまり問題にされなかった。フロンは利用価値が高いので、使用している企業にとって簡単に使用を中止することはできなかった。ところがオゾン減少の証拠は劇的に現れた。それがオゾンホールである。



 オゾンホールというのは毎年 9 ~ 10 月に南極上空のオゾン量が急激に減少する現象で、日本とイギリスの研究者によってほぼ同時に発見された。南極におけるオゾンの減少は、 1970 年代の後半から始まり、 80 年代に入って顕著になった。オゾン分布を描くと、南極の上にオゾン量が少ない領域が、ぽっかり開いた穴のように描かれることから、オゾンホールと呼ばれるようになった。

【山内豊太郎(2006年11月)】



図 上部成層圏でのオゾン破壊、下部成層圏でのオゾン破壊
『 異常気象レポート 2005 』気象庁より )

【 参考文献 】
嶋村克 ・ 山内豊太郎 :天気の不思議がわかる本 』、p.225 ~ 227、廣済堂2002 )

気象庁編 :異常気象レポート 2005 』、 p.359 ~ 360、気象庁2005 )

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