電磁波同定された重力波天体 2019年版
2017年8月17日,重力波望遠鏡Advanced LIGOとAdvanced Virgoによって中性子星合体からの重力波(GW170817)が観測された(図1).2015年に初めて重力波が直接観測されて以来,ブラックホール合体からの重力波観測が4例報告されていたが,中性子星合体からの重力波が直接観測されたのはこれが史上初めてのことである.
図1 GW170817の重力波シグナル
[画像出典]Abbott,B.P.,et al. 2017,ApJ,848,L13(Fig.2を改変)
さらに,GW170817に対応する天体が電磁波でも観測され,重力波天体の電磁波同定が初めて実現した.まず,重力波シグナルの直後(1.7秒後)にFermi 衛星とINTEGRAL衛星によりγ線が検出されている(図2).その後,LIGOとVirgoの3台の検出器によって重力波の到来方向が約30平方度に絞られ,合体から約11時間後には可視光望遠鏡などによる探査観測によってNGC 4993に対応天体が発見された(図3).可視光や赤外線で詳細な追観測が行われただけでなく,合体から9日後にはX線で,16日後には電波でも対応天体が検出され,幅広い波長域にわたって対応天体の徹底的な観測が行われた.重力波と電磁波の連携による「マルチメッセンジャー天文学」の本格的な幕開けといえる.
図2 γ線シグナル
[画像出典]Abbott,B.P.,et al. 2017,ApJ,848,L13(Fig.2を改変)
図3 すばる望遠鏡とIRSF望遠鏡によって捉えられたGW170817の電磁波対応天体の画像
[画像出典]©国立天文台/名古屋大学,Utsumi,Y.,et al. 2017,PASJ,69,101.
https://www.subarutelescope.org/Pressrelease/2017/10/16/j_index.html
このマルチメッセンジャー観測により,γ線バーストと中性子星合体の関連が初めて直接的に示されたといえる.ただし,検出されたγ線は通常のγ線バーストよりも1000倍以上弱いため,その起源はまだ定かではない.X線・電波シグナルの起源とあわせて,生まれたばかりの相対論的ジェットの構造の研究が進んでいる.紫外線・可視光・赤外線の放射は,中性子星合体で速い中性子捕獲反応(rプロセス)が起き,新しく合成された原子核が放射性崩壊することで起きる放射(「キロノバ」と呼ばれる)だと考えられる.すなわち,中性子星合体においてrプロセスが起きた兆候が得られたのだ.重力波観測からは宇宙における中性子星合体の頻度も見積もられ,中性子星合体が宇宙におけるrプロセス元素の起源になりうるかの検証も行われつつある.このように,1例の観測からだけでもすでに多くの知見が得られており,今後のマルチメッセンジャー天文学の展開が楽しみである.
【 田中雅臣 】