太陽観測史上最強の黒点磁場 2019年版
太陽観測衛星「ひので」は,太陽観測史上最大となる6250ガウス(625ミリテスラ)の磁場強度を持つ黒点を発見した(図1~3).これは一般的な黒点磁場の2倍の強さである.そして,黒点の磁場は通常もっとも暗い部分が一番強いのだが,この黒点はそのルールに反し,暗くない部分に存在するという特異な性質を示している.
黒点は暗部と半暗部からなっていて,その名のとおり暗く見える暗部を半暗部が取り囲んでいる.磁場はゴム紐と見なすとわかりやすく,黒点はゴム紐を束ねたような構造をしている.そして,その中央,つまり暗部の中心がもっとも磁場が強い.しかしながら,暗部以外の場所で,暗部を上回る強い磁場を持つ黒点が過去にも複数報告されており,なぜそのような強い磁場がつくられるのか長年疑問とされてきた.
ところが,「ひので」が観測したデータにその謎を解く鍵が隠されていた.今回発見された6250ガウスの磁場強度を持つ黒点の5日間にわたる観測データを解析したところ,最強磁場の地点に向かって,太陽面上にガスの強い流れが存在することを明らかにした.これは,地球のプレート境界で地震を引き起こす歪が溜まるのと同様に,磁極の異なる2つの暗部が近接しているとき,片方の暗部から延びるガスの流れが他方の暗部を強く圧迫し,その衝突点で磁場が強められているものと考えられる.
黒点磁場の発見から100年余り,大気ゆらぎや昼夜を問わない宇宙からの観測が可能な「ひので」の特性を生かし,黒点本体よりも強い磁場をつくり出すメカニズムに初めて一貫した説明を与えるに至った.強磁場の起源やその振る舞いは,フレアや黒点形成,ガスの噴出,コロナ加熱などにも大きく関わっている.この強磁場はフレア発生とその規模の大小に寄与するのか,あるいは逆に抑制するのかといったことは非常に興味深く,今後の研究につながるものと期待される.
【 岡本丈典 】
図1 最強磁場を持つ黒点.
図2 図1の白線上の全点における分光スペクトル.1の場所が最強磁場強度を示す位置.目盛りは磁場強度の目安.
図3 図2の右側にある鉄の吸収線(6302.5 Å)の形状を単純化したもの.ゼーマン分離した吸収線の間隔(矢印)が広ければ磁場強度が大きいことを意味する.この図では,暗部(2の場所)は 3500ガウス程度であるのに対し,明るい構造上の最大値は 6000ガウスを越えている.これほど広くて綺麗なゼーマン分離は他に例がない.
(©国立天文台/JAXA)