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人類が初めて見た冥王星の姿 2016年版(平成28年版)

 惑星順の覚え方が「水金地火木土天海冥」から「水金地火木土天海」に変わったのは,2006年夏のことである.肉眼で見える土星よりも遠方に,天王星(1781年),海王星( 1846年),冥王星(1930年)が順に発見され,先の「水金……冥」が自然に完成した.一方で,1950年前後には存在が予想され,冥王星と類似した軌道を持つ太陽系外縁天体(天13)は,1992年の 1992 QB1 の発見からこれまでに約1600個が見つかり,2005年には冥王星より大きなEris(天12)の発見(撮影は 2003年)が発表され, 2006年8月の国際天文学連合において惑星の定義(準惑星の定義は天12)が制定されるに至った.
 アメリカ NASA が推進する New Horizons ミッションでは,冥王星が惑星に分類されていた 2006年1月にアメリカ・フロリダ州のケープ・カナベラル空軍基地から冥王星に向けて探査機を打ち上げた.重さ 478 kg でグランドピアノほどの大きさの探査機は,これまでで最速の秒速 16 km で地球を飛び出し,翌2007年2月には木星の重力を利用したスゥイングバイにより加速,打ち上げ時から予定されていた通りの 2015年7月14日に冥王星表面から約 1万 km の距離を秒速 14 km で通過した.


写真A 約77万 kmから撮影した冥王星
(Credits: NASA/APL/SwRI)

写真 A は,最接近前日の7月13日に冥王星から距離約 77万 km にて撮影された冥王星のおもに北半球の姿である.ハッブル宇宙望遠鏡等の観測から,冥王星表面には反射率の高い明るい部分と反対に暗い部分の存在が指摘されていたが,今回の観測によりそれが明らかになった.また,2390 km とされていた冥王星の直径は,2370 km であることも判明している.一般的に天体の表面に見られるクレーターは数十億年前に形成されたとされるが,写真 Aではクレーターは数えるほどしか識別できないため,冥王星表面の構造は比較的新しい時代につくられたと考えられる.


写真B 写真Aのハート形の一部を拡大したもの
(Image Credit: NASA-JHUAPL-SwRI)

写真 Aの明るいハート形の領域の一部を拡大したものが写真 Bである.影が伸びる山々の高さは,富士山に近い 3500 m ほどと見積もられた.約46億年前の冥王星誕生以後も中心に熱源が残り続け,内部から氷が溶けて表面にしみ出し,約1 億年前に山々を形成したのではないかと考えられている.その一 方で,現在も造山運動が続いている可能性も示唆されている.


写真C 約47万 kmから撮影した衛星 Charon
(Image Credit: NASA-JHUAPL-SwRI)



  冥王星最接近の約10時間前の7月13日に約47万kmの距離から撮影した最大の衛星Charon( 天 12 )の姿が写真 Cである.中央やや下の左右に伸び,長さ約 1000 km にも達する絶壁と谷からなる筋は,何らかの内部機構によりできたと推測される.一方,右上の端に見られるのは,深さ 7~9 km の峡谷である.冥王星と同様,全体的にクレーターの数は少なく,地質活動により比較的新しい時代に表面が形成されたと考えられる.上方の北極領域は暗い色の物質で覆われており,周囲との境界がはっきりしていることが写真からもわかる.


写真D 冥王星通過後に振り返って撮影した「もや」
(Credits: NASA/JHUAPL/SwRI)

 写真 Dは,探査機が冥王星を通過してから約 7時間後に冥王星のほうを振り返り,太陽を背景にした冥王星を撮像したものである.黒い円形の冥王星の周囲に写し出された白い「 もや」の高さは,予想を遙かに超える表面から 130 km にも及び,50 km と 80 km には層があることも観測された.「 もや 」の中では太陽光の紫外線により化学反応が起こり,最終的には冥王星表面の黒い領域を覆う物質が生成されているのではないかと指摘されている.
 約 50億 km 離れた New Horizons 探査機と地球との通信速度は 2000 bps 程度である.探査機内のメモリーに保存されている冥王星接近時の観測データを地球へすべて送信し終えるのは 2016年末になるという.新たなデータが地球に届くたびに,我々は新発見に驚くことになるだろう.
 探査機の機能が正常である等の条件が許せば,彗星(天17~19)の母天体とされる太陽系外縁天体の近くを通過する延長ミッションを NASA は検討している.接近可能な天体の探査には,すばる望遠鏡も2004年から協力してきた.これまで我々が得ているのは,太陽熱により尾やコマを伴った状態で観測した彗星の情報である.探査機が太陽系外縁天体に接近し,太陽系誕生の約46億年前の状態を保存したままの姿を捉えられれば,彗星が地球に水や生命の源となる有機物をもたらしたという可能性に対して何らかの制約を与えられることになるだろう.

【 布施哲治・渡部潤一 】

画像出典:NASA ホームページ http://www.nasa.gov
参考文献:『太陽系の果てを探る』(東京大学出版会),『新しい太陽系―新書で入門 (新潮新書)』(新潮社),『シリーズ現代の天文学「太陽系と惑星」』(日本評論社),『なぜ、めい王星は惑星じゃないの?』(くもん出版)

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