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準惑星と冥王星型天体について 2010年版(平成22年版)

 2006年8月の国際天文学連合(IAU)総会における太陽系の惑星定義の決定を受け,冥王星は惑星ではなくなり,準惑星(dwarf planet)となった(2007年版理科年表暦74参照).定義によれば,(a)太陽を周回し,(b)質量が十分大きいため自己重力でほぼ球形(流体力学的平衡の形状)であり,(c)その軌道の領域で他の天体を力学的に一掃しているものが惑星(planet)とされるが,(a),(b)は満たすものの(c)を満たさず,かつ衛星でない天体はdwarf planet,これら以外の天体を太陽系小天体(small solar system body)と総称することとなった.さらに,別の決議で,冥王星を代表とする,海王星以遠の小天体群(trans-Neptunian object)の中で準惑星に属する一群を,新しい天体種族に分類することも同時に採択された.ただ,その種族の英語名については合意に至らず,早い機会に国際天文学連合執行委員会で決めることとなった.
 これらの動きを受け,日本では和名についての統一の必要性などから,日本学術会議物理学委員会IAU分科会の中に,日本天文学会や日本惑星科学会,日本公開天文台協会,日本プラネタリウム協議会,東亜天文学会,日本科学技術ジャーナリスト会議,天文教育普及研究会など,さまざまな分野の20名の委員からなる「太陽系天体の名称等に関する検討小委員会」が設置され,ほぼ一年近くをかけて英語名に対応する推奨和名や,教育現場での指針が議論された.その中では,今回の定義の問題点も指摘されることとなった.たとえば,現在の定義では小惑星帯にあるケレスが準惑星と分類される.しかし,惑星形成論等の視点から見れば,ケレスは太陽系の外縁部の冥王星やエリスなどの準惑星とは全く異なる履歴を持つと考えられ,同一分類にするのは混乱を招く可能性がある.むしろ,名称が決まらなかった新しい天体種族の方が,概念整理上は有効と考えられた.そのため,世界に先行して,日本ではこの新しい種族について「冥王星型天体」という和名を推奨することとなり,同時にIAUにもその趣旨に沿った名前を決めてほしいという要望を提出した.IAU側では,太陽系を扱う第三分科会における英語名の議論を経て, 2008年5月にオスロで開催されたIAU執行委員会で,plutoid(和名:冥王星型天体)と決定された.
 小委員会では,ほかにもdwarf planet には,当初使われた「矮惑星」ではなく「準惑星」を,small solar system bodyには「太陽系小天体を,trans-Neptunian objectには「太陽系外縁天体」という和名を推奨することとなった.また,準惑星について,さらなる概念整理がIAU等で進むまでは,準惑星の使用は積極的には推奨しないという結論となっている.これらの議論の結果は,対外報告にまとめられて公開されている.同時に,その内容をわかりやすくまとめた一般向けリーフレットを作成,約4万部を各種学協会などを通じて配布し,さらにポスター約3万部を全国のおもな小中学校に配布した.理科年表では,この小委員会の決定と IAUにおけるplutoid という英語名決定を受け,2008年版と2009年版では「太陽系小天体」に掲載していた冥王星型天体という名称を,2010年版からは「準惑星」に移し,「準惑星および冥王星型天体」という形で整理することとした.今後のIAUでの概念整理のさらなる進展について,その見通しは不明であるが,現段階においては冥王星型天体は「太陽系外縁天体であり準惑星」であるため,理科年表では準惑星という表記も引き続き用いている.

【渡部潤一】

日本学術会議 太陽系天体の名称等に関する検討小委員会
http://www.scj.go.jp/ja/info/iinkai/bunya/buturi/wakusei.html

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