世界天文年 2009 2009年版(平成21年版)
ガリレオ・ガリレイがパドヴァで望遠鏡による人類初の宇宙観測を本格的に開始したのは,1609年の11月末頃といわれる.この年の夏から始めた望遠鏡製作の過程で,月などを覗いたことはあるらしい.その後も重ねた苦心で望遠鏡の性能が向上し,いよいよ月面の明瞭な観測ができるようになったのだ.それから翌年初めにかけてのガリレオの快進撃は,大評判になった『星界の報告』(1610年3月出版,邦訳岩波新書)でもよく知られる.月面の山,木星の衛星,太陽の黒点と自転,夜空と天の川の無数の星…….ガリレオは,人類史上最大の発見の洪水を一身に背負ったのである.宇宙をさらに見たい,理解したいと願う人類の熱意は,望遠鏡の開発を加速した.望遠鏡は400年で巨大なシステムに変貌を遂げ,それとともに人類にとっての宇宙も壮大なものへ広がってきたのは,周知のことである.
国際天文学連合(IAU)がこの出来事から400年を記念するInternational Year of Astronomy 2009(邦訳:世界天文年 2009)を提起したのは,まことに時宜を得ている.2003年のシドニー総会で決議され,2005年にユネスコ総会決議,2007年には国連総会での決議を経て,真に世界的イベントとして準備が進んでいる.世界天文年は,IAUが指揮するグローバルイベントと,各国で独自に組織・実行する地域イベントとで構成される.現在10余りが走っているグローバル・イベントについてはIAUのIYAホームページ(http://www.astronomy2009.org/)に詳しいが,以下に2~3,例を挙げてみよう.
100 Hours of Astronomy:2009年4月2日から5日,各国の大望遠鏡での観測をアラウンド・クロックで追い,ウェブで世界をつなぐ.科学館や公開天文台でも,ウェブを見ながら多くの人々に月面観測を堪能してもらう.当然,日本からも「すばる」などが参加する.
The Galileoscope:400年前にガリレオが用いたのと同様の口径4cm,倍率15~30倍の小望遠鏡を安価に提供し,多くの子供達が「ガリレオの観測」を味わう.日本では独自開発の「ガリレオ望遠鏡」と詳しい観測マニュアルを準備中で,国際的にも企画の一部を担う.
Dark Skies Awareness:光害の無い夜空,失われた星空を取り戻そうというさまざまな運動が世界的に連携する.日本でもスターウィークや伝統的七夕ライトダウンなど,さまざまな連携を模索中である.
世界天文年に公式参加を表明した国は既に120余カ国,リンクされたそれぞれのホームページも68カ国に及ぶが,国・地域での独自活動は,とりわけ重要である.日本では日本学術会議物理学委員会のIAU分科会が窓口となり,日本天文学会,日本惑星科学会,日本物理学会などの関連学会,国立天文台,JAXAなど研究機関をはじめ,天文教育普及研究会,日本プラネタリウム協議会,日本公開天文台協会など幅広い関連組織の支援を得て,「世界天文年 2009 日本委員会」が組織された.日本委員会のもとでは企画委員会が企画・準備を活発に進めているが,メーカーとも連携した上記ガリレオ望遠鏡の開発をはじめとして,安全な日食観測めがねの開発,全国の公開天文台・プラネタリウム・アマチュア団体を結ぶ1000万人の大観望会,出版界の協力を得た星空ブックフェア,国立科学博物館などによる巡回展示などの企画が目白押しだ.愉快なキャラクター「ガリレオ君」も,ロゴやマンガ,IYAグッズで活躍する.世界天文年 2009 日本委員会ホームページ(http://www.astronomy2009.jp/)を,ぜひ訪問願いたい.
このほかさまざまな機関や組織で講演会やイベントが考えられているが,企画は自発性を大いに尊重し,日本委員会に連絡いただければ,ロゴやタイトル,ネットワークなどで連携・応援する.人とイベントの輪を大きく広げ,天文だけでなく科学に親しむ子供,自然に親しむ心を増やしたいと考えている.また企画委員会はこの機会にアジアでの協力をと,アジア 星の神話・伝説プロジェクトを進めている.いまギリシャ・ローマ神話一色に染まっている星文化に,豊かなアジアの伝統を取り戻したい.アジアの協力で各国に伝わる星・宇宙の神話伝説を選りすぐり,美しい本にして各国語で同時出版する計画で,そのために各国でのワーキンググループの組織,国際ワークショップの開催を計画中である.
準備が進む世界天文年だが,お定まりのように先立つものがない.日本委員会では国立天文台と協力し,ようやく募金態勢が整った(HP参照).天文研究者・教育者はもとより,天文ファンや企業家,一般の方々の応援をお願いしたい.
【 海部宣男 】