理科年表オフィシャルサイト

もっと身近にサイエンスを      国立天文台 編

MENU

世界測地系への移行について 2002年版(平成14年版)

 日本測地系は,我が国において位置の基礎となっており,地図や測量の基準と定められている他,土地の境界や各種法令・告示等の位置の基準としても広く用いられてきた.
 しかし,現行の日本測地系は,基礎が築かれた明治時代の科学的知識や技術上の制約を受けており,現代の科学的知見から見れば,以下のような問題点があることが指摘されていた.
1)日本測地系で採用されているベッセル楕円体が現在最適と考えられている地球楕円体から大きく乖離している(長半径で740mの差異);
2)経緯度原点の位置座標が地球規模の基準座標系で最適と考えられる位置から大きく乖離している(緯度で+12秒角,経度で‐12秒角);
3)測量誤差,計算誤差やジオイド高の無視に起因する歪みと地殻変動による経年変化によって測地網に大きな歪みが生じている(東京から見て,北海道で9m,九州で4m.)
 これらの指摘がありながらも,日本測地系は最近まで日本国内の測量のために支障なく使用されていた.しかし,近年,GPS測位などによって世界測地系に基づく位置決定が容易にかつ高精度に行えるようになって,日本測地系と世界測地系との差が明瞭に認識されるようになってきた.このため,測地学審議会測地部会,日本学術会議測地学研究連絡委員会,日本測地学会などから世界測地系への移行に向けての提言がなされていた.
 また世界的に見ても,GPS等を用いた航法システムが広く用いられるようになったことを背景に,国際水路機関(IHO),国際民間航空機構(ICAO),国連アジア太平洋地域地図会議ではそれぞれ海図,航空図,地図の測地系に世界測地系を採用することを勧告している.さらに行政的にも米国,カナダ,オーストラリア,欧州諸国などが世界測地系を採用している.
 これらの事情により,我が国でも世界測地系に基づく新たな測地基準系を用いることとなった.このために,測量法および水路業務法の改正作業を行い,2001年6月にこれらの法律の改正案が国会で成立した.法律の中では位置の表示の基準として世界測地系を用いることが規定され,実際に用いる楕円体,原点に関するパラメータなどについては政令で定めることとなっている.
 本稿を作成している段階ではまだ政令は公布されていないが,国土地理院では座標系としてITRF94座標系(1997.0時点),楕円体としてGRS80楕円体を用いることで基準点座標の再計算などの準備を行っている.また,世界測地系へ移行するにあたって,全地球的な位置の決定としては鹿嶋におけるVLBI国際観測の結果を用い,また日本全国の基準点の座標については国内VLBIの観測結果と電子基準点(GPS連続観測点)を骨格とした再計算を行った.これにより,従来の日本測地系における網の歪みや地殻変動の影響も解消した.この世界測地系による基準点座標値を「測地成果2000」と呼んでいる.
 世界測地系への移行は,2002年4月1日を期して行われる予定となっており,これに関連して国土地理院発行の地形図へ世界測地系に基づく緯度経度の記入などの措置が順次行われている.また,海図については,2002年4月までに世界測地系への移行が完了する予定である.

【 今給黎哲郎 】

タグ

閉じる