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銀河系の精密3D地図を作る 2002年版(平成14年版)

 我々の銀河系は一番身近な銀河であるにも関わらず,その構造はまだ良く解明されていない.我々は銀河系を内部からしか観測できないので,銀河系の構造を知るためには天体の位置と距離を精確に測定する必要がある.ところが,極く近傍の天体を除いて距離の測定にはいくつかの仮定が必要なため,精度良く距離を求めることは大変難しい問題である.この問題を解決し,銀河系の精密な三次元地図を作ろうとしているのが天文広域精測望遠鏡計画(VERA = VLBI Exploration of Radio Astrometry)である.
 最も基本的で仮定を必要としない天体までの距離の測定方法は,三角測量(年周視差法)である.年周視差とは,地球が太陽の周りを公転する間に天体の見かけの位置が変化する角度を言う.天体までの距離は年周視差に反比例し,年周視差が1秒角ならば距離は1パーセク(3.26光年)となる.
 ところが,地上からでは年周視差を使って測定できるのはせいぜい数十パーセクが限度である.この限界を広げようと1989年にヨーロッパ宇宙機関(ESA)が位置観測人工衛星HIPPARCOS(High Precision Parallax Collecting Satellite)を打ち上げた.HIPPARCOSの位置測定精度は1ミリ秒角で距離の精度を飛躍的に高めることができたが,10%の誤差で測定できたのは100パーセク以内の天体だけであった.VERAでは,10%の誤差で10キロパーセクの距離を測定することが目標である.これには10マイクロ秒角の位置精度が必要だ.
 VERAは岩手県水沢市,鹿児島県入来町,東京都小笠原村,そして沖縄県石垣市に置かれる4つの20m電波望遠鏡から成っている.超長基線電波干渉法(VLBI = Very Long Baseline Interferometry)という観測法を使っているが,通常のVLBIでは観測機器に起因する誤差や電波が大気を通過するときの揺らぎなどによって天体の位置計測精度が劣化させられてしまう.そこでVERAでは10マイクロ秒角の位置精度を実現するために,望遠鏡にそれぞれが焦点面上で動ける2つの受信機を搭載し,2つの天体を同時に観測できるようにした.これによって誤差の要因となる大気揺らぎの影響を相殺し,2天体間の位置を高精度で測定できるようになる.このために「すばる」で開発されたスチュアートプラットホームという構造が採用された.これは受信機を6本のジャッキで支え,それぞれのジャッキの長さを制御することによって位置や向きを変えるものである.また,従来の4倍の速度で受信信号を記録できる1GHzの高速サンプラーや磁気記録装置が新しく開発され,より暗い天体も観測できるようになった.
 2天体の相対位置を高精度で測定できることが,VERAの特徴である.クェーサーとメーザー天体を同時に観測するが,非常に遠方にあるクェーサーは地球の公転によって見かけの位置は変化しないから,クェーサーを基準として系内メーザー天体の年周視差を精度良く測定できる.銀河系内に散らばるメーザー天体の位置と距離を測定することによって,銀河系の渦巻き構造や中心部の棒状構造を調べることができる.また,同時にメーザー天体が天球上を動く速度(固有運動)も測定できるから,従来求めることができなかった太陽系より外側の回転曲線も精度良く求めることができ,銀河系内の質量分布,特にダークマターの分布に関して調べることが可能になる.
 これから望遠鏡や観測装置の調整を行い,さらに,たくさんの試験観測を行った後,VERAによる銀河系精密地図作成が開始される.

【 柴田克典 】

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