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新元素ニホニウムの発見 2017年版(平成29年版)

 2015年大晦日,国際純正・応用化学連合は,113番元素発見の優先権が理研の森田浩介博士らを中心とする研究グループ(森田グループ)にあると公表した.新元素の発見者には,元素名と元素記号の命名権が与えられる.森田グループは,113番元素の元素名として,発見者の祖国「日本」にちなんだ名前「Nihonium(日本語名:ニホニウム)」と元素記号「Nh」を提案している(2016年10月現在).
 原子核は陽子と中性子と呼ばれる核子から構成されている.陽子の数が原子番号に相当し,これが元素を決める.原子番号が104以上の元素は超重元素と呼ばれ,原子核同士を互いに融合させる核反応によって人工的に合成・発見されてきた.超重元素は非常に不安定で,短時間でα粒子を放出したり(α壊変),自発的に核分裂したり(自発核分裂壊変)してより安定な原子核に壊変する.
 2003年,森田グループは,理研の重イオン線形加速器を用いて光速の10%に加速した亜鉛(30番元素,70Zn)のイオンをビスマス(83番元素,209Bi)の標的に照射し,113個の陽子をもつ新元素の原子核(278113)を合成する実験を開始した.278113の分析には,質量分析装置の一種である気体充填型反跳分離器と原子核壊変に伴って放出されるα粒子や核分裂生成物を計測するためのシリコン半導体検出器が用いられた.
 79日間の照射の末,2004年7月23日,森田グループは,4回の連続したα壊変とそれに続く自発核分裂壊変を観測した.4回目のα壊変は,原子核が壊変するまでの時間(寿命)とα粒子のエネルギーが,既知元素ボーリウム(107番元素,266Bh)が壊変するときの値とよく一致していた.また,266Bhのα壊変によって生成するドブニウム(105番元素,262Db)は自発核分裂することが知られていた.α粒子はヘリウム(2番元素,4He)の原子核であるから,α壊変によって原子番号は2つ減少する.よって,262Dbに至るまで4回のα壊変を引き起こした最初の原子核は,105+2×4=113で113番元素であることがわかる.森田グループは,2005年4月2日にも同様な壊変鎖を観測した.森田グループは,これら二度の113番元素合成の成功を,新元素の発見を調査するための国際純正・応用化学連合と国際純粋・応用物理学連合との合同作業部会に主張した.しかしながら,観測事象数が少ないなどの理由から新元素発見の優先権は認められなかった.
 森田グループはその後も粘り強く実験を継続し,2012年8月12日,新たに6回の連続したα壊変鎖を観測した.ここで観測されたα壊変の寿命とエネルギーは,266Bhだけではなく262Dbとローレンシウム(103番元素,258Lr)のデータにも一致することを確認した.また,別の核反応によって266Bhを多数合成し,その壊変鎖が113番元素からのものと矛盾しないことも確認した.森田グループは,再び113番元素発見の優先権を合同作業部会に主張し,2015年12月31日,ついに国際純正・応用化学連合によって認められることになった.実験を始めてから13年の長い道のりであったが,記念すべきアジア初,日本発の新元素が間もなく元素周期表に加わる.

【 羽場宏光 】

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