バイオリソース 2014年版(平成26年版)
―― 研究なくしてリソースなし,リソースなくして研究なし
バイオリソースとは,生物学,医学,農学など生命科学の研究に用いられる生物研究材料の総称である.生物遺伝資源とも呼ばれ,動植物の標本から,微生物,動植物個体およびそれら由来の組織・細胞・遺伝子と付随情報,さらには医学研究に必要な患者および健常人由来の試料と情報まで含み,個体,集団,そして,進化におけるさまざまな生命現象の解明の研究のために用いられている.バイオリソースは,生命科学研究の研究基盤として,その役割と重要性が増しており,各国はその確保と整備のためのプログラムや施設を拡充している.わが国においても文部科学省が,主要なバイオリソースの中核的拠点として,2001 年に理化学研究所バイオリソースセンター(理研BRC:http://brc.riken.jp/ )を設置し,また 2002 年からは,ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP )を発足させ,研究基盤の充実を図っている.経済産業,厚生労働,農林水産等の各省においても施策の目的に沿った各々のバイオリソース基盤を構築している(表 1 ).いずれの基盤も,整備することのみが目的ではなく,研究者に利用されてこそ本来の役割を果たすこととなる.
長年,研究者はバイオリソースを採集,選抜,開発,研究してきた.バイオリソースは,研究の過程で作出されるものであると同時に,バイオリソースなしでは研究の進展は望めない.実験科学においては,実験結果が再現されてはじめて真実となる.そのため,遺伝的均一性が確保された「系統」や「変異体」が多くのバイオリソースで確立されてきた.例えば,ショウジョウバエやマウスのように,バイオリソースとして 100 年に近い歴史をもつものもある.また,この 30 年間,飛躍的に発展した遺伝子操作技術を利用し,さまざまな遺伝子組換えバイオリソースが作製され,遺伝子機能の解明に使われている.さらに,遺伝子発現の時空間的な制御技術も開発され,脳・神経,免疫などの高次生命機能が,モデルリソースを用いて明らかになりつつある.加えて,昨今の DNA 配列決定装置の画期的な発展により,多くのバイオリソースで全ゲノムが解読され,ゲノム情報に基づいたバイオリソースの利用が拡大している.
このようなバイオリソースとその関連情報の急速かつ爆発的な拡大は,個々の研究者が取り扱える量をはるかに凌駕し,組織的な取組みが必要となっている.また,バイオリソースの「質」の確保,向上は,研究実施上,極めて重要な要素であり,そのためにも集約して,品質管理・保存・提供する体制が構築された.さらにバイオリソースは,失われたら二度と復元できない特徴を有しており,災害が起きても将来においても利用可能なように安全に保管する必要がある.
生命科学研究の第一歩は,創造的な研究課題を設定することと,研究目的に最も適した「由緒正しい」バイオリソースを利用することである.そのことが新しい発見・発明を生み出す根源となる.
【 小幡裕一 】
表 1:わが国で整備されているバイオリソース
■文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP )
(http://www.nbrp.jp/ )
■製品評価技術基盤機構
(http://www.bio.nite.go.jp/ )
■医薬基盤研究所
(http://www.nibio.go.jp/research/ )
■農業生物資源ジーンバンク
(http://www.gene.affrc.go.jp/about.php )