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生物の進化を解析する 2007年版(平成19年版)

 我々の属する哺乳動物は,我々人間にとって馴染みの深いものである.分類学的には,哺乳動物は,綱(こう)という分類群に属し,哺乳綱という.哺乳綱の中でも,やや原始的と考えられている単孔類(カモノハシ)や有袋類(カンガルー)を除く胎盤を持つ哺乳類を真獣類と呼んでいる.現存の真獣類は,形態学的に17の目(もく)に分類されている.たとえば,我々は,霊長目に属するし,イヌやネコ,さらには水中に棲むアザラシなどはすべて食肉目に属している.ウシやブタ,ラクダはひづめが偶数なので偶蹄目(ぐうていもく)に属しているし,ウマやサイは,奇蹄目(きていもく)に属するといった具合である.
 この17の目がどのように進化してきたかということは実は最近まではっきりと解ってはいなかった.一応,形態学的な見地から,仮説は出されていたのであるが(たとえば,ノバチェック,1992),分子を使った系統樹と色々な点で合わない所が多く未解決であったのだが,それが最近漸く解決しそうなのだ.それに大きく貢献しているのが我々の研究室で開発されたSINE(サイン)法である.SINEはレトロポゾンといわれる転移因子の一種で,一度ゲノムに入り込むと再び出ることはない.ゲノムに転移するときに特異的な配列に入り込む訳ではないので,異なった系統で独立に同じSINEが入り込むという可能性はゼロに等しいと考えられている.したがって,ゲノムのある場所にSINEを共有する種は,近縁であると考えられるのである.このような手法を用いて,1999年に我々は,カバがクジラと最も近縁の哺乳動物であることを証明した.カバとクジラだけがSINEを共有しているような多くの座位を単離することに成功したからである.この結果は,カバが,同じ偶蹄目に属するウシやラクダより,クジラの方により遺伝的に近縁であることを示している.この結果により,従来クジラの祖先とされていた化石として知られる陸上動物のメソニックスが,クジラとは何の関係もない動物であるということが証明されたのである.さらに最近になって,同じレトロポゾンではあるが,LINEと呼ばれる長い転移因子を用いて,コウモリ(翼手目),イヌ(食肉目),ウマ(奇蹄目)が単系統であることが証明された.偶蹄目に属する動物達は,これらより先に分岐しているのである.形態的には,ひづめを持つグループということで,従来は偶蹄目と奇蹄目は近縁と考えられてきたのであるが,この結果は,そうではないことを示している.偶蹄目のひづめと奇蹄目のひづめは進化の過程で独立に生じたのだ.

レトロポゾンによって明らかになった真獣類の進化系統樹

残った最後の疑問:どの順序で分岐したか?

図にレトロポゾンによって示された最新の哺乳類の進化系統樹を示す.真獣類は,根本のところで大きく3つのグループに分岐する.1つは,Boreoeutheriaといわれるグループで,霊長類,齧歯類,偶蹄目などローラシア(アジアとヨーロッパ)で発達したと考えられる多くの動物達を含む.それから,Afrotheria(アフリカ獣類)といわれるグループで,ゾウ,マナティー,ハイラックス,ハネジネズミなどアフリカ大陸で発展した動物達である.もう1つが,アルマジロやアリクイの含まれる南米で発達した動物達である.今後の大きな課題は,この3つのグループがどのような順序で分岐したかであるが,これも近い将来レトロポゾン法によって解決されるであろう.

【 岡田典弘 】

■トピックス後日談■

  その後 岡田研究室でレトロポゾン法を用いて,初期保哺乳類の三つの系統,北方獣類(Boreoeutheriaともいい,ユーラシア大陸に生息した動物に由来する) ,アフリカ獣類(アフリカ大陸に生じた動物に由来),異節類(アルマジロなど南米大陸に生息した動物に由来する)はほとんど同時に分岐したことが証明された.このDNAによる分析を元に,地層の採掘データを分析し直して,アフリカと南米が1億2千万年前に分岐したという地質学的に新しいデータを得た.このデータを元に,ユーラシア,アフリカ大陸,南米大陸は1億2千万年前にほとんど同時に分離し,そのことによる生殖隔離が初期哺乳類の3系統を生んだのだという新しい仮説を提唱している.

【 岡田典弘(2017年1月)】

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