PM2.5 と環境影響 2015年版(平成27年版)
大気中には,直径が 0.001 μm( 1 μm は 0.001 mm)から 100 μm 程度の様々な粒子状の物質が存在している.代表的な粒子状物質としては,ディーゼル自動車からの排気粒子,黄砂,スギ花粉(それぞれ直径 0.1,4,30 μm 程度)などが挙げられる.これらの粒子状物質の性状は,粒径のほかにも,化学組成,形状,光学的特性などの多くの因子によって表され,極めて複雑である.大気中の粒子状物質(大気エアロゾルとも呼ばれる)は,人の呼吸器や循環器に悪影響を及ぼすだけでなく,気候や生態系にも大きな影響を与えることが知られている.
PM2.5 は,直径が 2.5 μm 以下の微小な粒子状物質と定義される.このような微小粒子は,その健康影響が懸念されることから,日本では 2009年に環境基準が制定された.PM2.5 は,発生源から直接排出される一次粒子と,大気中の反応によって生じる二次粒子で構成される.一次粒子には,化石燃料やバイオマスなどの燃焼によって発生するもの,土壌粒子(黄砂や土壌の巻き上げ)や海塩粒子などの自然起源のものがあるが,都市域では前者が主要な発生源であり元素状炭素や有機炭素などの成分で構成される.一方,二次粒子は,硫黄酸化物,窒素酸化物,アンモニア,揮発性有機化合物などのガスが,大気環境中での化学反応により蒸気圧の低い物質に変化して粒子化し,その後,凝縮および凝集を繰り返してより大きな粒子に成長したものである.それぞれのガスは,硫酸塩,硝酸塩,アンモニウム塩,有機炭素などのPM2.5 成分に化学変化する.
日本では環境基準が制定されて以降,全国の自治体で PM2.5 の常時監視測定が本格的に開始された.2012年度の測定結果によれば,全国の一般環境大気測定局(一般的な環境大気を測定する測定局)における環境基準達成率は 43.3% となっており,過半数の測定局で環境基準が達成されていない.また,地域的には西日本で達成率が悪く,この原因として大陸からの越境汚染や黄砂の影響が考えられる.
PM2.5 による大気汚染は,中国やインドなどのアジアの国々で大きな社会問題になっている.これらの国では,近年,急速な経済成長によって化石燃料の消費が急増し,燃料の燃焼過程などで発生する大気汚染物質によって,PM2.5 汚染が悪化している.中国大陸で発生した PM2.5 は,風下の日本列島に運ばれ,日本の大気質に大きな影響を及ぼしている.日本国内の都市域では,この越境汚染に都市汚染が上乗せされて環境基準を超過するような PM2.5 の濃度レベルになっていると考えられる.このような越境汚染の実態は,観測やモデルシミュレーションによって明らかになりつつあり,西日本ではその影響が非常に大きいことが報告されている.
PM2.5 汚染を低減するためには,国内の発生源対策と国外からの越境汚染対策を共に実施する必要がある.国内対策を進め,その経験や技術,制度や政策を海外に移転することによって近隣国の汚染を減らし,その結果として日本への越境汚染を低減するといった複合的な取り組みが求められている.
【 大原利眞 】