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原子核分裂と原子炉

原子核分裂 私たちの身の回りの物質は原子からできているが、この原子の中心部分にある原子核に原子の質量のほとんどが集中している。原子核は陽子と中性子が密に詰まった状態であるが、この原子核が自発的に、または外部からの中性子入射などの刺激により、 2 つの分裂片に割れて飛び散る現象を原子核分裂または単に核分裂と呼ぶ。原子核の質量が大きくなるほど核分裂が起こりやすくなり、また核分裂に伴い分裂片より放出される中性子が、連鎖反応 後述を引き起こす。

核分裂の発見 1938 年に O. Hahn と F. Strassmann が天然ウランに低エネルギー中性子をぶつける実験を行い、その結果生じる放射性同位体中にバリウムを発見した。 L. Meitner と O.R. Frisch はこの現象を、中性子を吸収したウランが 2 つに分裂した結果であると解釈して、これを核分裂と名付けた。

核分裂のメカニズム 核分裂を起こす親の原子核親核の質量は、核分裂の結果生じる 2 つの分裂片の質量の和よりも大きい。その結果、アインシュタインの質量とエネルギーの等価性より、核分裂を起こすことにより解放されるエネルギーは 235U質量数235のウラン の場合、 1 回の核分裂あたり約 2 億 eV電子ボルトとなる。一方、ほぼ球形の親核が核分裂を起こす当初には、エネルギー的に親核の状態よりも約 500 万 eV 高い核分裂障壁という鞍部点を通過する必要がある。しかしながら原子核が量子力学に従うために、励起エネルギーがこれより低くてもトンネル過程というメカニズムで障壁を透過することも可能で、とくに基底状態 エネルギー最低状態にある原子核が自然に核分裂を生じる場合、この現象を自発核分裂と呼ぶ。人工的に核分裂を起こさせるときには、この障壁を容易に超えるように、235U に中性子を吸収させる等の反応により、障壁の高さ程度以上の励起エネルギーを与える。核分裂の結果生じる分裂片の質量や電荷は多岐にわたるが、親核がウランやプルトニウム等の典型的なアクチノイド核の場合、大小の質量非対象のペアに分裂する成分 非対称核分裂が対称のペアに分裂する成分対称核分裂よりも多いという特徴を持つ。この非対称核分裂の起源は、殻構造と呼ばれる陽子や中性子の量子力学的波動関数の性質により解明された。生成された分裂片はエネルギー的に励起された状態にあり、その各々は中性子や γ 線を放出し、また β 崩壊を起こすなどして、最終的に安定核となる。

連鎖反応 核分裂生成物である励起された分裂片からは中性子が放出される。 235U に対する熱中性子入射核分裂の場合、放出される中性子数は平均的に 2.4 個となる。その結果、ウラン等の核分裂性物質がある量以上 1 ヵ所に集中して存在した場合、 1 つの核分裂の結果放出された中性子が近くにある別のウランに吸収され、それがその核の核分裂を引き起こし、さらにそこから放出された中性子がつぎの核分裂を誘起し、その過程が続く場合がある。これを連鎖反応と呼ぶが、連鎖反応が時間とともに減少してゆく場合を未臨界、連鎖反応が時間とともに増加してゆく場合を超臨界と呼び、この両者の境を臨界と呼ぶ。超臨界状態が一気に起きると原子爆弾の爆発となり、制御された状態で臨界を維持しているのが原子炉での定常運転状態である。

原子炉 制御された状態で連鎖反応を持続させ、発電その他の目的に使うための装置が原子炉である。歴史的には 1942 年に E. Fermi たちのグループによりシカゴ大学で作られたシカゴ・バイル 1 号で初めて臨界が達せられた。この炉は燃料として天然ウラン、中性子減速材核分裂により放出された中性子のエネルギーを下げることにより、つぎの核分裂を起こしやすくするために用いる として黒鉛を用いており、黒鉛のブロックを積み上げた構造pileのためにこの名称がある。その後種々の構造の原子炉が開発されているが、減速材による分類としてはこの他に、軽水 通常の水炉、重水炉、高速増殖炉減速材なし等がある。現在、原子力発電で広く用いられている軽水炉は減速材および冷却材として軽水を用いているが、冷却機構の違いにより沸騰水型原子炉と加圧水型原子炉とに分かれる。高温に熱せられた軽水は沸騰水型原子炉では直接、加圧水型原子炉では二次冷却水との熱交換の後に蒸気タービンを回して発電を行っている。冷却材による分類としてはこの他に、重水冷却、ガス冷却、溶融金属冷却、溶融塩冷却等の方式がある。

オクロ天然原子炉 上記の人工原子炉以外に、唯一自然に 235U が連鎖反応を起こした原子炉炉心跡がアフリカのガボン共和国オクロ地区のウラン鉱山で見られる。この炉が稼働した約 20 億年前には 235U/238U の比が約 3%現在の天然ウランではこの比が約 0.72%であるが、 235U と 238U とでは前者のほうが後者より半減期が短いため、 20 億年前にさかのぼるとこの比の値が約 3%となるで現在の発電用濃縮ウランと同程度であり、適当なウラン集積量と水の存在の下に約数十万年にわたり間欠的に稼働していたと考えられている。この天然原子炉は 1972 年フランスのウラニウム濃縮工場での発見に基づき確立されたが、アーカンソー大学 当時の黒田和夫は 1956 年にこれを予想していた。

【岩本 昭】
( 理科年表 2012年版平成 24 年版震災特集より )

 

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