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核融合

 核融合は、核分裂とは対照的に、水素のような軽い原子核が融合してヘリウムのような少し重い原子核になる反応である。この時、同じ量の水素が空気中で燃える、すなわち酸素との化学反応によって発生するエネルギーの 100 万倍ものエネルギーが発生する。
 太陽は自然の核融合炉である。太陽では 4 つの水素原子が融合して 1 つのヘリウムができる反応を代表とする核融合反応がゆっくりと進んでおり、そのエネルギーが宇宙へと放出され、地球へも届けられている。原子核はほぼ同じ質量を持った陽子と中性子の 2 種類の核子からできている。この核子 1 個あたりの質量は原子によって異なり、周期表を水素から追うと小さくなっていき、鉄で最小になり、そこからは大きくなっていく。鉄の原子核は一般に陽子 26 個と中性子 30 個からできているが、陽子 1 個からなる水素の原子核の 56 倍よりも軽いということである。質量とエネルギーは等価であることから、鉄は最もエネルギーが低い安定な状態といえ、太陽の中では、最も軽い水素から順番に鉄に至る原子核が核融合反応によって生まれ、エネルギーを放出している。このように核融合は物質とエネルギー両方の創造を担っている。
 さて、この核融合反応を応用して、新たなエネルギー源として利用するための研究が進められている。原子核は正の電荷を持っているために、原子核の間には電気的な反発力が働く。原子核のエネルギーがこの反発力に打ち勝つだけ大きく、原子核同士が十分近づくことができなければ核融合反応は起こらない。原子核同士に働く反発力に打ち勝つだけのエネルギーを持つ物質は、原子核と電子がばらばらに飛び回る 「 プラズマ 」 と呼ばれる高温の電離した気体となる。核融合で燃えている太陽はプラズマの塊であり、中心の温度は 1600 万度、圧力は 2400 億気圧もある。太陽の直径は地球の約 100 倍あり、その強大な重力がこのプラズマの圧力とつり合っている。
 地上で核融合のエネルギーを利用するためには、この超高温のプラズマを閉じ込める必要がある。しかし、地球の重力は小さすぎてうまくいかないし、このようなプラズマを閉じ込められる容器は存在しない。このため、磁場や慣性を用いた研究が進められている。1 つは磁場核融合と呼ばれ、強力な電磁石を用いる方法である。プラズマは電離した状態にあることから、磁場を使って閉じ込めることができる。電磁石によって作られた、眼には見えない磁場容器が超高温のプラズマを壁に接触させることなく閉じ込める。もう 1 つの方法は、凍らせた燃料球に強大なレーザーを照射することによって、10 億分の 1 秒以内に燃料を加熱、点火する方法である。こちらは慣性によって燃料が留まる時間内で反応を起こすものであり、慣性核融合と呼ばれる。運転形態としては、磁場核融合を太陽のように核融合で燃えるプラズマを維持するガスコンロに例えれば、慣性核融合は爆発燃焼をくり返す車のエンジン 内燃機関に例えられよう。
 太陽での水素の核融合反応は極めてゆっくり起こることから、地上の核融合では、それとは異なる、燃えやすい水素の同位体である重水素と三重水素の核融合反応を用いる。通常の水素の原子核に電荷を持たない中性子が 1 個付いて、質量が 2 倍となった原子核が重水素である。重水素は通常の水素のうち約 7000 個に 1 個の割合で存在し、事実上燃料として枯渇することはない。三重水素は中性子がもう 1 つ付いて、質量が 3 倍となったものであり、自然に存在はするものの、燃料として利用できる量ではない。このため、三重水素を生産する必要がある。核融合炉の最も大事な部分を概念として図に示す。



燃料である重水素と三重水素を、1 億度を越える超高温のプラズマにすると核融合を起こして、ヘリウム原子核と中性子が生まれる。ヘリウム原子核はプラズマに留まり、超高温状態を保つ熱源となる。中性子は熱源を持たないためプラズマから飛び出す。プラズマのまわりにはブランケットと呼ばれるリチウムを含む構造物が取り囲んでいる。この中で中性子の運動エネルギーを熱に変えるとともに、この中性子を利用して、リチウムから燃料となる三重水素を生産する。このときブランケットで発生した熱は水、ヘリウム、液体金属、溶融塩等を利用する一時冷却系に伝えられ、さらに、二次冷却系の水を蒸気に変えて発電に利用される。
 核融合の研究は、1 億度を越えるプラズマの実現や、1 秒間ではあるが核融合反応によって 1 万 6000 kWキロワットの熱を発生させるなど、近年大きく進展した。これらの成果に基づき、磁場核融合によって重水素と三重水素の核燃焼を制御し、実際に 50 万 kW の熱を 500 秒間発生させる国際熱核融合実験炉ITER計画を欧州、米国、ロシア、中国、韓国、インドと日本が協力して進めることとなった。現在、フランスに装置を建設中で、核融合燃焼実験を 2020 年代後半に計画している。レーザーによる慣性核融合についても単発ではあるが、点火燃焼の実証が米国の国立点火施設において計画されている。
 100 万 kW の電力を発電するためには約 300 万 kW の熱が必要である。これを核融合反応で担う場合、1 年間に必要な重水素と三重水素はわずか、それぞれ 110 kg と 160 kg である。重水素はもちろん、リチウムも豊富な鉱物資源であり、燃料枯渇の問題はない。また、この核融合には、運転時には二酸化炭素を発生しないこと、連鎖反応に対する固有の安全性があることなどの特長があり、近未来の基幹エネルギーとして期待される。
 核融合炉の炉心となるプラズマは強い非線形性を持った典型的な複雑系である。工学では、たとえばブランケットは、核融合反応によって生じた中性子から熱と三重水素を生むため、極限環境で安全に動作することが求められる。核融合研究はその可能性を実証していくために、これらの最先端の科学の統合を図るものといえる。

【山田弘司】
( 理科年表 2012年版平成 24 年版震災特集より )

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