平成14年【序文】
理科年表の2002年度版を、お届けする。
理科年表は大正14年の創刊以来、研究者学生の座右の書、また教育や生産の場で役立つ世界に例のないデータブックとして、愛され発展してきた。編集委員会は最前線の研究者のご協力を得て、古きを改め新しきを補う改定作業を毎年行っている。今年度は重要性を増す環境問題に特に留意し関連分野で大幅な増補改定を行ったほか、必要性が薄くなった事項や重複部分を削除し、社会の要請が高まった事項の増補に勤めた。読者の御批判をいただければありがたい。
現代社会では科学の果たす役割がますます重要になる一方、日本では産業構造の変化や、子供のみならず大人の理科離れが心配されている。編集グループはそうした中で、ささやかながら理科年表が果たし得る役割を考え、社会のニーズの変化に対応する新しい理科年表への大幅改版を実現するべく、プランを練っている。理科年表を職場のデスクや家庭に常備される「自然界の辞典」と位置付け、21世紀社会において少しでも自然と科学への関心の高まりに役立つものにできればという思いからである。増大するボリュームへの配慮や索引の充実、CD-ROM版との役割分担も含め、利用者、愛読者の方々から御意見をいただきつつ、使い易い理科年表を実現したい。
理科年表は、冒頭の「暦」部編纂の必要などから国立天文台が責任編集をお引き受けしているが、広い分野を網羅するデータの更新改定は、気象庁、国土地理院、海上保安庁水路部、国土交通省河川局などをはじめとする多くの組織と、多くの研究者の方々の努力の賜物である。詳しくは監修者一覧にもあげられているが、これらの組織・研究者の方々にお礼を申し上げたい。
今年は、日本にも世界にも激動といえる一年だった。悲しむべきテロと報復戦争の繰り返しは21世紀も果てしなく続くのかと考えると、誰しも憂鬱になるのではないだろうか。宗教と科学は人類の幸福のために生まれてきたはずなのだが、今世紀、科学や科学者は何ができるのだろうと、考え込まされることが多い。
日本では経済運営の破綻のツケを払う構造改革が、国立大学や研究機関まですべて巻き込む形で進んでいる。その行く先は、渦中にいる私たちも含め、誰にも見えていないとの感が強い。日本の科学研究は今後どうなるのか、失速してしまわなければ良いがとの心配を抱く研究者は、数多い。いずれにせよ私たちの社会は、科学に関しても大きな変革を遂げなければならないのだろう。理科年表もその一環としてあることを、肝に命じたい。
2001年 11 月
国立天文台 台長 海部宣男