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太陽ニュートリノについて

 太陽のエネルギー源は太陽中心で起こっている核融合反応である,という考えは実験的に確かめる必要がある.このため,核融合反応の際同時につくられる電子ニュートリノというたいへん貫通力の強い素粒子をとらえ,その観測頻度から太陽中心の核融合反応を検証しようという試みが世界の4カ所で行われている.
 太陽から飛来する電子ニュートリノを特に太陽ニュートリノというが,100億個の太陽ニュートリノが地球にあたっても,1個が原子とぶつかるだけであとはなにもせずに通り抜けてしまうほど,その反応率が弱い.
 アメリカのHomestake実験は1960年代後半より,四塩化炭素の液体を615トン使って,0.81MeV以上のエネルギーを持つ太陽ニュートリノの観測を開始し,現在も継続している(1MeVは100万電子ボルト).日本のKamiokande実験は680トンの水を標的とした装置で,1987年より7.5MeV以上の太陽ニュートリノをとらえている.ロシアのSAGE実験,ヨーロッパのGALLEX実験はそれぞれ60トン,30トンのガリウムを標的とした装置で,1990年,1991年より最低検出エネルギー0.23MeVで観測が始まった.どの実験も2日に1例程度の観測頻度であり,恐ろしく困難な研究である.
 ガリウム実験が注目されるのは,0.23MeV~0.43MeV近辺の太陽ニュートリノ発生率が太陽のエネルギー発生率の観測値を使って精度よく計算できるので,観測と理論の不一致があればそれはむしろニュートリノの特性にからむ素粒子物理に解決を求めなければならないからである.
 4実験の1993年時点における結果を,観測結果/理論計算という比で表すと以下のようになる(±のあとの数値は誤差を表す).

    Homestake 0.29±0.03
    Kamiokande 0.49±0.07
    SAGE 0.44±0.19
    GALLEX 0.66±0.12

 特に同種の実験であるSAGEとGALLEXの平均をとると,

    SAGE+GALLEX 0.61±0.10

である.無論,理論がすべて正しいとすると,この比は1にならなければならない.驚くべきことにすべての実験結果は理論計算より有意に小さい.1993年現在4実験の特性が可能な限り調べられているが,上の結果が大幅に変更される可能性は見つかっていない.特にガリウム実験の結果が理論計算と一致しないのはたいへん重要である.
 そこで現在の太陽物理学は正しく理解されているとし,素粒子物理学の理論に高密度の太陽物質中をニュートリノが伝播する影響を新しく導入する.その結果,もしμ型のニュートリノが約0.003eV(注1)という微小な質量を持てば,4つの実験結果をすべて説明できることがわかった.この値はμニュートリノのパートナーで電気を持ったミューオンの質量の3000億分の1しかなく,また電子の質量(0.51MeV)と比べてもたいへん小さな値であり,素粒子物理学に新しい問題を投げかけている.
 太陽ニュートリノの問題がこのように素粒子物理学の問題とすると,そのエネルギースペクトルも理論との不一致をきたすはずである.現在建設中の大型装置Super-Kamiokande(日本)とSNO(カナダ)にエネルギースペクトルを精密に測定できるので,両装置が動き出す1996年以後数年以内で,太陽ニュートリノ問題の最終的な決着がつくであろう.

【戸塚洋二】

注1(2019年6月追記):現在の値は約0.01eV.
*2019年6月追記:現在は、質量差(電子ニュートリノとμニュートリノ)2 が10-4eV2であることがわかっている.絶対値はわかっていない.(最近の理科年表を参照)

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