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高エネルギーγ線源

 X線より短い波長領域の光がγ(ガンマ)線と総称される.光子1個あたりのエネルギーが大きくなるので,天体での放射や吸収などの相互作用及び検出の方法は電磁波というよりむしろ素粒子の一種としての性質に基づいている.このため,γ線は天体の高エネルギー粒子の情報をもたらすが,観測は各波長帯の中で最も立ち遅れていた.γ線衛星SASII(1972~73),COSB(1975~82)などによって,銀河系内のγ線の分布が徐々にわかってきたが,1991年に打ち上げられたアメリカのγ線衛星,コンプトンガンマ線観測所(Compton Gamma Ray Observatory)により一段と理解が進んだ.この衛星のEGRET検出器によって100個を超す天体が高エネルギーγ線(100MeV~10GeV)源として発見され(表1),高エネルギーγ線観測も天体観測の一つの分野としての確立の基盤が固まってきた.一方,1960年代末に発見された奇妙な天体,一時的かつ短期間にγ線を多量に放出するγ線バーストをコンプトン衛星のBATSE検出器はすでに1000個程度検出しているがその正体の謎はむしろ深まっている.

表1 高エネルギーγ線源の数


1.銀河系内の高エネルギーγ線天体:
銀河系内天体については5つがパルサーと同定され,周期が200ミリ秒程度以下の若いパルサーである(表2).銀河系を充たす宇宙線として知られている高エネルギーの陽子や電子から高エネルギーγ線は非熱的に放射されていると考えられ,実際表1のγ線源はべきで近似されるエネルギースペクトルをもっている.高エネルギー粒子の加速源の候補としてパルサーの他に超新星残骸近傍の衝撃波が有力なモデルである.超新星残骸を検出の誤差半径の中に含むγ線源もいくつかあるが,γ線検出器の角度分解能が1°程度であるために,電波やX線などの他波長との同定はまだなされていない.

表2 γ線パルサー

周期Pとその時間変化率dP/dtから計算した.
*1 中性子星の回転エネルギーの時間あたりの損失率
*2 p/(2dP/dt)から推定した年齢
*3 γ線の明るさの*1に対する割合


2.銀河系外高エネルギーγ線天体
:高い銀河緯度のγ線源のいくつかは活動銀河に同定され,おそらくその中心核から高エネルギーγ線が放射されているものと考えられている.激しい時間変動をし,硬い電波のスペクトルをもち,あるいは光速度に近いジェットをもつなどの特徴をもつブレーザーと総称されるグループの活動銀河が高エネルギーγ線源となっている.これらのうち最大の赤方変位をもつものは2.286である.検出の誤差半径の中に複数の銀河やクエーサーを含むものなど他波長の観測と同定されてないものも多い.
3.γ線バースト:10秒程度の間に数十KeVから1MeV以上のγ線が一時的に放出されるγ線バーストは従来の測定器の100倍の感度をもつコンプトン衛星のBATSE検出器で一日一個弱の割合で蓄積されている.EGRETなどの高エネルギーγ線測定器で検出されたものもあり,べきで近似される硬いエネルギースペクトルをもち10GeVを超える高エネルギーγ線を放出するバーストも観測された.太陽系近傍の中性子星が原因と考えられていたので(距離を観測から直接決定できない),感度の改善で銀河円盤に沿った分布が観測されると期待されていたが,バースト数の蓄積にもかかわらずバースト源が等方的である特徴を依然示している.各バーストの観測された明るさに対して数の分布をとると(絶対的な明るさが一定と仮定して)距離についての分布が推定できる.最近の観測データによれば,明るさの分布は,無限に広いユークリッド空間の一様分布から期待される分布に比べ,暗いバーストの数が少ないようである.銀河ハローに分布する中性子星起源から,はるかに遠い宇宙論的距離に分布している可能性まで残されている.

【木舟 正】

■トピックス後日談■

「ガンマ線天文学の著しい発展と残された課題」
 木舟先生がこのトピックスを執筆なさってからおよそ四半世紀が経過したが、このガンマ線天文学は最も著しい進展が見られた分野の一つである。ガンマ線バーストは宇宙論的距離で起き、莫大なエネルギー(~1051-1054erg)を解放する、巨星の死に伴う現象であることが確立し、ガンマ線を放つブレーザーは検出数が増えると共に、その多様性も明らかになった。銀河系内のガンマ線源もパルサーだけではなく、パルサー星雲(パルサー風によって形成された数pcの広がりを持つ星雲)、ガンマ線連星(中性子星またはブラックホールと恒星からなる連星)、超新星残骸、宇宙線起源と思われる銀河中心や銀河円盤上の拡散放射など、様々な種類のガンマ線源が発見された(図1)。
 大きな観測的進展をもたらしたのは、MeV-GeV帯域に感度を持つFermiガンマ線宇宙望遠鏡と、TeV帯域を得意とするH.E.S.S.やMAGICなどの地上チェレンコフ望遠鏡である。Fermi以前のガンマ線バーストは、主にMeV帯域で観測されていた。EGRETが検出したガンマ線バーストのGeV光子統計はまだ不十分で、その結果には大きな不定性が残っていた。2008年に打ち上げられたFermi衛星は、上位数%の明るいバーストから数十GeVにまで達するガンマ線を検出した。放射は千秒ほどに渡って継続し、数十秒のMeVガンマ線放射(即時放射)の継続時間と比べてはるかに長い。これは相対論的な衝撃波が星間空間を伝播する際に放たれる残光だと解釈されている。即時放射の際にもGeV放射が放たれているかもしれないが、残光と区別するには未だ光子統計が足りない。2019年1月にはMAGICがガンマ線バーストを捕え、その大きな有効面積のおかげで莫大な数の光子を検出したようだが、まだ結果は出版されていない。
 Fermiによる最も意外な成果は、我々の住む銀河中心の上下数kpcに渡って広がる、巨大な泡状のガンマ線放射、フェルミ・バブルを検出したことである。これは銀河中心で過去に起きた激しい活動、例えば中心ブラックホールからのジェット噴出や、爆発的な星形成などに伴い、銀河円盤の上下にエネルギーが供給された名残だと考えられている。
 ブレーザーからのガンマ線放射は、H.E.S.S.やMAGICによって数分程度の短い変動が確認された。この短い変動はブラックホールのサイズと矛盾しており、理論解釈にとって挑戦的な課題となっている。短い変動は可視・UV光の密度が高いブラックホール近傍が放射領域であることを示唆しているが、不思議なことに、可視・UV光との相互作用で期待される、電子・陽電子対生成によるガンマ線吸収の徴候が見られないケースも発見されている。
 銀河系内を漂う宇宙線は、そのスペクトルから判断し、1015.5eV以下の粒子は銀河系内の超新星残骸で加速されていると考えられてきた。Fermi、H.E.S.S.、MAGICは稼働以来、順調に超新星残骸からのガンマ線を検出した。検出されたガンマ線が電子起源か陽子起源かは、未だ不確実な部分もあるが、少なくともその一部は、陽子起源の放射と解釈できている。しかし、そのガンマ線スペクトルは、高エネルギーまで伸びることはなく、1015.5eVまで陽子が加速されている証拠は見つかっていない(図2)。宇宙線の起源は未解決問題として残されている。
 ガンマ線に加え、電波・可視・X線などの電磁波、ニュートリノ、宇宙線、重力波などと同時観測することで、多面的な情報を得ることができる。このような研究戦略をマルチメッセンジャー天文学と呼び、まさに現在はその始まりに位置する時代である。2017年には中性子星連星合体に伴う重力波と、暗く短いガンマ線放射が同時に観測された。これは巨星起源とは異なる、短い継続時間(数秒以下)のガンマ線バーストの起源を考える上で重要なヒントとなっている。同じく2017年に、ガンマ線ブレーザーの方角から、高エネルギーニュートリノが1発飛来したことが報告された。ブレーザーとの相関はまだはっきりしないが、加速陽子と光子が衝突してニュートリノを生成している現場なのかもしれない。ガンマ線観測はマルチメッセンジャー天文学の重要な一翼を担っており、今後も活躍が期待されている。

【浅野勝晃(2019年5月)】


図1 Fermi衛星が検出した全天の天体。半数以上はブレーザーを含む活動銀河核(AGN)だが、銀河円盤にはパルサー星雲(PWN)、超新星残骸(SNR)なども分布している。
出典:Acero et al.: “FERMI LARGE AREA TELESCOPE THIRD SOURCE CATALOG”, The Astrophysical Journal Supplement Series, 218: 23 (41pp), 2015 June 12: https://iopscience.iop.org/article/10.1088/0067-0049/218/2/23/meta (DOI: 10.1088/0067-0049/218/2/23 ) © AAS. Reproduced with permission.

図2 超新星残骸Cassiopeia Aのガンマ線スペクトル。GeV-TeV帯域は冪(べき)乗スペクトルとなっているが、TeVを超えた帯域にカットオフがある。
出典:Ahnen et al.: “A cut-off in the TeV gamma-ray spectrum of the SNR Cassiopeia A”, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, 472 (3), 2956-2962 (2017).
By permission of Oxford University Press on behalf of the Royal Astronomical Society, online at: [10.1093/mnras/stx2079].
※当図は王立天文学会(RAS)、オックスフォード大学出版(OUP)の許諾のもと転載。RASとOUPは翻訳・当サイト内の記事内容について一切の責任を負わないものとする。

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