γ線バーストの残光の発見と対応天体
1960年代に打ち上げられた核実験監視衛星Velaによって偶然発見されて以来,ほぼ30年の間,ガンマ線バーストの起源は謎であった.そもそも発生源の距離がまったく不明で,これが太陽系内の現象なのか宇宙論的な遠方の初期宇宙の現象なのかすらわからなかった.しかし,1997年3月から1年間の急展開によって,少なくとも発生源の所在は宇宙論的な遠方銀河の中,ということで決着がつく気配となってきた.
ガンマ線バーストの正体をつきとめるためには位置を正確に求め,そこに関連する既知の天体を探すことが必要なことは発見直後から指摘されていた.しかしガンマ線バーストが検出される硬X線やガンマ線の検出器の位置決定精度は乏しく,恒星や銀河などと対応をつけることは不可能であった.1991年に打ち上げられたコンプトン衛星は,ほぼ全天を常に監視し,1000個を越えるバーストの位置を数度の精度で測って等方的に分布することを明らかにした.その結果,天の川銀河系に属する天体(たとえば単独中性子星)を起源とする説は困難になってきた.
イタリアとオランダの協力によって作られたBeppoSAX衛星は広視野X線カメラ(WFC)とガンマ線バーストの検出器(GRBM)を搭載し,WFCの視野内で発生したガンマ線バーストの位置を数分角で決めることができる.1997年2月28日に起きたガンマ線バーストの位置は数時間後に決定された.追観測に結びつけられるほどの位置が迅速に得られたのはガンマ線バースト観測史上初めてのことである.続く2回のX線反射望遠鏡(BeppoSAXの主観測装置)を用いた精密観測によって,そこに以前は存在しなかった減光するX線源が見いだされ,数日後の『あすか』衛星やドイツのROSAT衛星の観測からX線残光はほぼ時間に反比例してさらに減光し続けていることが明らかにされた.さらに,ラパルマの4.2m望遠鏡によって可視光対応天体が発見された.ハッブル宇宙望遠鏡,ケック望遠鏡など多数の観測が行われ,可視光でもX線と同様な減光をしていることが示された.BeppoSAXに続いて,米国のRossiXTE衛星によっても数個のバーストの位置が決められ,1998年7月の時点までに合計18個のバーストのX線と可視光による追観測が行われている.X線では12例,可視光では9例から残光と思われる変動天体が検出されている.このX線および可視光の「残光」の発見は,秒角の精度でガンマ線バースト源の位置を決めることを可能にし,対応天体の探索に突破口を開いた.
GRB970228の可視光残光天体近傍には,銀河と思われる広がった天体がハッブル宇宙望遠鏡によって検出された.GRB970508に対しては,ケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移z=0.8を示すスペクトル吸収構造が検出された.いよいよ宇宙論的遠方起源を示す証拠が得られ始めたわけである.そして,ケック望遠鏡によってGRB971214の可視光残光天体のごく近傍にある微弱な銀河は赤方偏移z=3.4を示すことが明らかにされた.もしガンマ線バーストが120億光年という宇宙論的遠方のこの銀河に属するならば,全放射エネルギーは超新星爆発の数百倍に達する.これほど巨大な爆発は,中性子星2個の合体や,変種の超新星爆発など,今までに提案された仮説では説明できない.
ガンマ線バーストの起源が宇宙論的遠方にあることは,ほぼ決定的になってきたが,これを証明し,バーストの正体がどのような現象であるかを明らかにするにはX線と可視光の残光,および母銀河の観測例を積み重ねていく必要がある.BeppoSAX,RXTE,『あすか』など稼働中のX線天文衛星の連携観測では,年間10個程度のガンマ線バーストの位置が数日以内に1分角の精度で得られるであろう.
1999年末に打ち上げられる予定のHETE2衛星は,X線観測装置で年間30~40個のガンマ線バーストの位置を数分角の精度で決め,リアルタイムで全世界の観測者に提供することを目的としている.地上でも高速移動広視野望遠鏡によって,発生後数秒以内に可視光残光を捉えようとする計画が稼働し始めている.『すばる』をはじめとする新しい大型望遠鏡にも期待がもたれる.一方で,公共天文台・アマチュア天文台等の中小規模の望遠鏡でも,ガンマ線バースト位置情報ネットワーク(GCN)に加入して迅速な情報を得れば,可視光対応天体を発見するチャンスがある.今後のガンマ線バースト残光の観測への積極的な参加を期待する.
【 河合誠之 】