すばる望遠鏡のファーストライト
1991年度から8年間をかけて建設されたすばる望遠鏡のファーストライトの観測が,1998年12月の末に行われた.この時の観測は「エンジニアリング・ファーストライト」と呼ばれるもので,望遠鏡の自動追尾用に取り付けられている小型のCCDカメラが用いられた.この時初めて口径8.2mのすばる望遠鏡の薄い一枚鏡支持機構がその機能を発揮して,大集光力による精度1秒角以下の星像が実際に得られていることが確認された.続いて正月をはさんで1999年1月11日以降,赤外線分光撮像装置(CISCO),および可視モザイクCCDカメラ(SuprimeCAM)を用いた,天文学的に十分高い意義をもった天体観測のテーマがいくつか選定され,すばる望遠鏡による初めての本格的な観測が実施された.この観測のシリーズが「サイエンティフィック・ファーストライト」と呼ばれるものである.
ファーストライトに使用された2つの観測装置の主要な仕様は以下の通りである.
・CISCO:波長0.9~2.5ミクロン(μm)領域,視野2分平方,画素0.12秒角で,広帯域および狭帯域のフィルターによる撮像と,グリズム分光ができる.
・SuprimeCAM:波長0.35~0.9ミクロン(μm)領域,視野約4分×6分角で,可視用広帯域フィルターによる撮像ができる.
ハワイ現地時間の1月11日から13日の3日間のサイエンティフィック・ファーストライト観測の際に観測された主な天体と得られた成果の簡単な概要を箇条書きにしておく.
・オリオン星雲:CISCOで3×3視野分(約8分角×8分角)を,JとK′バンド,および水素分子輝線バンドを使って撮像した.精密な輝線放射領域の画像と,褐色矮星を含むごく低質量の星の存在量が明らかにされた.その後の分光観測データも含め論文化した.
・L1551-IRS5:原始星天体で,JとK′バンドでジェットの放出の様子を撮像.その後の分光観測による電離した鉄原子の輝線の寄与も明らかになり,ジェット領域の構造と物理状態を議論し,論文化した.
・A851銀河団:可視と赤外線のバンドで約2分×3分の領域を観測.非常に暗い銀河団メンバーまでの高い測光精度と解像度が得られ,可視から赤外線までをカバーした色指数の分布などの議論を中心に論文化した.
・PG1115+080:重力レンズ効果により4つに分割されたクエーサーを,JとK′バンドで撮像.CISCOの高速読み出しモードで,空間分解能0.3秒角以下を達成し,母銀河の中心部の構造を議論し,論文化した.
・そのほか,前主系列星HL Tau,低輝度銀河Malin 1,z=5のクエーサー,ヒクソン・コンパクト・銀河グループの1つ,M31アンドロメダ星雲,いくつかの惑星状星雲等々の観測も実施された.
これらの文字通りのファーストライト観測と,それ以後,1月から8月頃までの試験観測期間にも,すばる望遠鏡自身の調整と平行させて,CISCO,およびSuprimeCAMを用いながら,望遠鏡と観測装置を併せた総合的な性能を確認するという作業が進められた.その結果,CISCOによるK′バンドの撮像観測中に,補償光学系システムを使わない自然のシーイング条件では,これまで達成されたことのない0.2秒角の解像度を地上望遠鏡として初めて達成した.またこの期間には,装置開発グループ,すばる望遠鏡建設グループのメンバーが提案した多くの観測プロジェクトも順次遂行されている.中でも,北銀極に近い空の非常に暗い天体までのサーベイ観測(すばるディープフィールド)は,JとK′バンドでそれぞれ約10時間の露出をかけた画像が得られており,宇宙のかなり初期の情報を解明する手掛かりになるものとして注目されている.
【 舞原俊憲 】