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現在の天文基準座標系

 天体の位置や運動を観測したり記述したりするためには,空間に固定していると考えられる座標軸が設定されるか,あるいは設定された座標軸の動きが時間の関数として既知のものであることが必要である.この空間に固定された座標軸の3つの組をcelestial reference systemという.これらの座標軸の位置は適当に選ばれた多数の天体の座標を与えることによって間接的に知ることができる.これらの座標のセットを celestial reference frame という.
 従来の天文基準座標系はある元期における地球の平均赤道とその上の平均春分点に準拠した赤経と赤緯によって定められていた.その座標を具体的に定めていたのは基本星表であり,1984年から1997年まで使用されていた第5基本星表FK5はJ2000年(2000年1月1日12時力学時)を基準元期とし,1535星(後に精度がやや落ちる3117星がPart IIとして加えられた)の座標を与えていた.基本星表では採用している春分点の位置が力学的春分点からずれていることが明らかになると春分点の位置を修正し,また採用歳差定数の誤差が明らかになると固有運動を修正して新しい歳差定数に合うように改訂されてきた.
 超長基線電波干渉法(VLBI)によって遠方の銀河系外天体の位置が精密に測られるようになると,これらの天体は遠方のため固有運動がほとんど検出できないことがわかり,これらの天体を用いて固定座標系を設定しようと考えられるようになった.そこで国際天文学連合(IAU)は1991年に,将来の天文基準座標系は遠方の銀河系外天体を基準にすべきこと,その基準面と基準点はそれぞれJ2000年の地球の平均赤道面と力学的春分点にできるだけ近いものとすべきことを勧告した.ただし,一旦定めた基準面や基準点の位置は,それが平均赤道面や力学的春分点から外れていることが明らかになっても変更することはしないこととした.これを満たすように定められたcelestial reference systemをInternational Celestial Reference System(ICRS),それに対応するcelestial reference frameをInternational Celestial Reference Frame(ICRF)という.ICRFは合計608個の銀河系外電波源の座標から成るが,その内212個の電波源がICRFを定義する天体,294個は今後の観測で座標精度が上がることが期待されている天体,残りの102個は他の種類の天体との結合のために選ばれた天体である.ICRSは1998年1月1日より国際的に使用されている.その後の解析により,ICRSの基準面はJ2000年の地球の平均赤道面から約0.″02ずれており,基準点はJ2000年の力学的春分点(Newcomb流の定義に従う)から約0.″08ずれていることが明らかになっているが,前述のとおり,これを修正することはしないので,歳差・章動などの効果を精密に計算する必要がある場合にはこれらの差を考慮することが必要になる.
 可視光域の恒星についてはヒッパルコス星表がICRSに準拠するように作成され,ヒッパルコス座標系のICRSに対する回転は1年当たり0.25ミリ秒角以内といわれる.ただし,これと矛盾する観測事実も指摘されており,真の結合精度はこの星表を使ってなされる今後の研究によって確かめられることになる.
 瞬時の基準座標系には,これまで地球の真赤道と真春分点が用いられてきた.IAUは2000年の総会において,今後基準点としては真春分点の代わりに,瞬間的には赤道方向に回転成分を持たないnon-rotating origin(NRO)を用いるべきことを勧告した.この基準点はCelestial Ephemeris Origin(CEO)と呼ばれ,2003年から使用される予定である.CEOは春分点に対しては1年あたり約46″の割合で東に移動する.なお,春分点に準拠した座標もこれまで同様,使用できることになっている.

【 相馬 充 】

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