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ヒトゲノム研究

 1999年12月にヒト22番染色体(約3400万塩基対),2000年5月には,ヒト21番染色体(約3300万塩基対)長腕の高精度(99.99%以上)塩基配列が,それぞれ報告された.ヒトゲノム全体についても,80%以上の領域について概要配列が決められつつあり,2003年に予定されている全配列決定が,いよいよ現実のものとなっている.
ゲノム研究の意義
 体がうまく組み上げられ,育ち,活動し,子孫にそれを受けついで行く生命の流れは,その指令書である遺伝情報が正しく読みとられ,順序正しく実行されているからにほかならない.膨大な数の情報の一つに変化が起こるだけで,わたしたちの体には様々な影響が現れる.ヒト・ゲノム解析研究は,30億字に記されたヒトの全遺伝情報を解読し,ゲノムの構成,遺伝情報の制御を明らかにし,ひいては生命の流れの中におけるヒトの存在意義にまで迫ろうという壮大な計画である(文部省創成的基礎研究「ヒト・ゲノム解析研究」パンフレットより抜粋).
 ここには,ゲノム研究の本質が述べられている.ヒトゲノム研究は,基礎科学としてのヒト生物学の側面と,医学・薬学などの応用的研究を通じて人類の健康,生活といった社会的側面とを含む.しかし,ヒトという言葉を読み替えれば,ゲノム研究は,あらゆる生物を対象とする研究の根本に関わる基盤研究であることがわかるだろう.
ヒトゲノムプロジェクト
 ヒトゲノムプロジェクトは,日本,アメリカ,イギリスを含む各国で1990年から91年にかけ,国際協調を掲げて相次いでスタートした.このため,HUGO(Human Genome Organization)と呼ばれる科学者組織が作られたが,ヒトゲノム研究のメイントピックが塩基配列決定に移り,大規模ゲノム解析センターが主力になるにつれて,その影響力は減少している.ヒトゲノムの塩基配列決定については,日本,アメリカ,イギリス,フランス,ドイツ,中国からゲノムセンターの代表が集まる国際会議が組織され,全体の調整が図られている.
ヒトゲノムプロジェクトの進展
 大規模ゲノム解析を進めるためには,いくつかの必要条件がある.まず,従来型生物学研究の発想と大きな差違が見られるのは,効率的なデータ生産に対する考え方である.前者では比較的無視されてきた側面だが,データ生産に相応の経費が発生する以上,重要な問題である.現在,我が国のヒトゲノムデータ生産量は世界の約7%だが,あと2-3年早く発想の転換を行い,必要な施設と資金が手当されていれば,我が国のゲノム研究が占める国際的立場もずいぶん違っていたことだろう.必要な時期に必要な資金援助が充分に行われなかったのは残念としかいいようがない.
 大規模塩基配列データ生産の中核となるのは,塩基配列を生産するプロセスである.従来使われていた板状ゲルを用いるシークエンサーに代わり,現在では多数の毛細管を用いるキャピラリ式シークエンサーが使われるようになっている.しかし,これだけでは全体のシステムは動かない.まず,出発材料となるDNAクローンが必要となるが,それを得るためにはクローンの集合体であるゲノムDNAライブラリと,特定クローンを選別するためのスクリーニングシステムが必要である.また,生産された塩基配列データを処理し,必要な情報を抽出したりデータバンクに登録するために,高速かつ大容量の情報処理システムも必須である.全体の記録管理や情報収集を行うための情報システムも必要である.大規模ゲノムセンターは,これらの中心的アクティビティに加え,研究開発部門と支援スタッフがそろって,はじめて運用することが可能になるのである.
ヒトゲノムプロジェクトの現状
 この分野は極めて進歩が早いため個別的成果を紹介することはしなかったが,ほとんど全ての情報はインターネットを通じて公開されている.下記に,国内外の代表的ゲノム研究機関,データバンクのURLを掲げておく.
ゲノム研究機関のURL:
理化学研究所ゲノム科学総合研究センター
  http://hgp.gsc.riken.go.jp
東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター
  http://www.hgc.ims.u-tokyo.ac.jp/
マサチューセッツ工科大学ゲノムセンター
  http://www-genome.wi.mit.edu
ワシントン大学ゲノムセンター
  http://genome.wustl.edu/gsc/
英国サンガーセンター
  http://www.sanger.ac.uk
米国エネルギー省連合ゲノムセンター
  http://www.jgi.doe.gov/
データバンクのURL:
NCBI  http://www.ncbi.nlm.nih.gov
EBI  http://www.jgi.doe.gov/
DDBJ  http://www.ddbj.nig.ac.jp

付 記
ヒト染色体上の遺伝子座数
OMIM: Online Mendelian Inheritance in Man, OMIMTM.McKusick-Nathans Institute for Genetic Medicine, Johns Hopkins University (Baltimore, MD) and National Center for BiotechnologyInformation, National Library of Medicine (Bethesda, MD), 2000.より http://www.ncbi.nlm.nih.gov/omim/
位置の確定した遺伝子座数: 6316
chromosome 1 : 634
chromosome 2 : 380
chromosome 3 : 323
chromosome 4 : 246
chromosome 5 : 272
chromosome 6 : 382
chromosome 7 : 295
chromosome 8 : 210
chromosome 9 : 245
chromosome 10 : 219
chromosome 11 : 401
chromosome 12 : 337
chromosome 13 : 102
chromosome 14 : 195
chromosome 15 : 165
chromosome 16 : 241
chromosome 17 : 389
chromosome 18 : 89
chromosome 19 : 414
chromosome 20 : 139
chromosome 21 : 91
chromosome 22 : 142
chromosome X : 381
chromosome Y : 24

【 藤山秋佐夫 】

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