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生物遺伝資源整備事業

ナショナルバイオリソースプロジェクト
 生命科学の研究では,適切な生物を材料に選んで実験を行うことが重要である.このため,大腸菌から哺乳類さらには植物まで,各々の生物種を代表する特色あるモデル生物が開発され,生命科学の進歩に貢献してきた.しかし,我が国の生命科学の歴史を振り返ると,国外で開発されたモデル生物をそのまま輸入して利用するという傾向があったことは否定できない.また,せっかく国内の研究者が開発育成した優れたモデル生物が,その研究者が退職するといつの間にかどこかに散逸してしまうということも起こっていた.研究材料が生命科学を進めるうえで重要な要素だとすると,このような状況では真に独自性の高い研究を行うことが難しくなる.そこで,文部科学省は,生命科学の分野を支える研究材料を生物遺伝資源(バイオリソース)と位置づけ,それらの貴重な資源の収集・維持・供給について全国的視野から整備するナショナルバイオリソースプロジェクトを平成14年からスタートさせた.このプロジェクトでは,すでにあるリソースに加えてマウス等の新しいリソースの開発や今後の研究にとっては不可欠のバイオリソースについてのゲノム情報の整備も重点課題となっている.

マウスミュータジェネシス
 実験動物であるマウスには,古くから多数の突然変異体(ミュータント)が知られており基礎生物学や医学の分野で用いられてきた.ヒトおよびマウスでのゲノム解読が完了した今,ミュータントマウスの不足が遺伝子の機能を解析するために大きな障害となっている.このため,世界中で様々な手法によりミュータントマウスの作製が行われている.理化学研究所ゲノム科学総合研究センターでは,ナショナルバイオリソースプロジェクトの一貫として,アルキル化剤の一種である化学変異原のENUを使ってゲノム上に高率に突然変異を誘発するマウスミュータジェネシスプロジェクトを始めている.この方法では,遺伝子が変異したマウスの異常形質(表現型と呼ぶ)を様々な角度から大規模にスクリーニングして,ヒト疾患のモデル動物となるような有用なミュータントマウスの作製を行うことができる.すでに,糖尿病や行動異常などを示す貴重なミュータントが開発されている.また,欧米では,標的遺伝子破壊(ノックアウト)法によって,マウスの全遺伝子が個別に破壊されたミュータントバンクを構築しようという計画も実行に移されている.このように,ゲノム情報の整備が進んだマウスを材料としたミュータジェネシスによって,すべての遺伝子の機能を解明しようという壮大な計画が動き出そうとしている.

【 城石俊彦 】

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