月までの距離はどのようにして測定するのでしょうか?
月の軌道は完全な円軌道ではないのですが、その平均距離は 385000.5 km です。
月までの距離の測定方法としては、ヒッパルコスが紀元前に日蝕を用いて行ったとされる方法が有名です。ヒッパルコスは経度の同じ地球上の 2 点から日蝕を観測しました。そのときの太陽の隠れ具合から月を見込む角度 (視差)を求め、幾何学的考察によって月までの距離は少なくとも地球半径の 59 倍であり、最大でも 72 と 2/3 倍であるであると結論づけました。これは実際の値である地球半径の 60 倍を含むものであり、当時としてはきわめて正確であったことがわかります。では、現代ではどのようにして月までの距離を測定しているのでしょうか。
1969 年にアポロ 11 号によって初めて人間は月に降り立ちましたが、そのときに月に光を入射方向に正確に反射させるリトロリフレクターという鏡を置いてきました。同様の装置はアポロ 14 号と 15 号によって月の異なる場所に置かれています。また、ロシア製の月面探査車 Lunakhod 2 号に搭載されたフランス製のものも置かれています。これらの鏡に向けて地球上にある望遠鏡からレーザー光を発射し、それが反射されて戻ってくる光子をとらえ、その間の時間を正確に測定することで、望遠鏡から鏡までの距離をきわめて精度良く求めることができます。この方法を月レーザー測距法 (Lunar Laser Ranging)といいます。ここで、月の軌道は円軌道からはずれているため、長期にわたって観測を行うことによって計測される時間にも変動が生じることになります。この時間の変動を再現することによって月の軌道を決定し、地球と月の間の距離を求めます。月の軌道の決定には力学的なモデルとの比較を行いますが、月の運動には地球だけではなく、太陽をはじめとする太陽系の惑星からの重力が影響を及ぼすため、これら考えられるすべての要素を加えたうえでのモデルの構築がなされます。変動を構成する要素としては月の公転のような短い周期のものから何年もかかる長い周期のものまで含まれるため、長期間の観測データの蓄積によって、モデルの精度が向上していきます。月レーザー測距法がはじまった 1970 年代前半には観測される変動とモデルによる予測との差は 25 cm 程度でしたが、 30 年以上経過した現在では 2 から 3 cm の精度にまで向上しています。
月レーザー測距法の成果は非常に有用で、月までの距離の他に、月の軌道の詳細な決定、月の内部構造の解明、一般相対性理論の検証等、多岐に渡っています。
【小野寺仁人 延世大学、韓国(2006年11月)】
図 1 アポロ 11 号が置いてきたリトロリフレクター(NASA 提供 )。一辺の長さが 46 cm のアルミの箱に直径 3.8 cm のリフレクターが 100 個並んでいます。 (http://sunearth.gsfc.nasa.gov/eclipse/SEhelp/ ApolloLaser.html より取得 ) |
図 2 リトロリフレクターの月面上の位置。頭文字 A はアポロ、 L は Lunakhod のものをあらわしています。 ( http://physics.ucsd.edu/~tmurphy/apollo/ lrrr.html より取得 ) |
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