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宇宙には果てがあるのですか?

 地球上で果てを求めて進んでいくと単に一周して元の場所に戻ってきます。これは地球という 3次元の球体の表面には特別な果てはないからです。私たちは地球の外側に宇宙が拡がっていることを知っていますが、仮に地球表面のことしか認識できない生物がいたとしたら、果てを求めてどこまで行っても結局果てにはたどり着かないでしょう。宇宙の場合はこれがもう一つ次元が上がって 4次元時空になります。私たちは 4次元の立体の表面の 3次元空間に存在しています。したがって、私たちが宇宙の果てを求めてどこまでも旅しても、4次元空間の立体の表面を進むことになり、ここで宇宙が終わり、という果てはありません。

  しかしながら、情報を伝達する手段である光は無限の速度を持つわけではありませんので、見える範囲としての宇宙の果ては存在します。これは宇宙の年齢である 137 億年前に光を発した天体が現在ある場所に相当します。137 億年前に光を発した天体は宇宙膨張によって現在ではさらに遠ざかっていますので、それを考慮すると、私たちから見える宇宙の地平線は半径およそ 470 億光年の球の範囲ということになります。理論的にはこの範囲の外側にもずっと宇宙が拡がっているとする説もありますが、観測する手段がないため確かめることができません。

 

図 1  WMAP ( Wilkinson Microwave Anisotropy Probe : ウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機 ) によって観測された宇宙マイクロ波背景放射の全天図です。これが光 ( 電磁波 ) で観測可能な宇宙の果てです。 ( http://map.gsfc.nasa.gov/m_or.html より転載)

 

 一方、ビッグバンではじまった宇宙の初期は高温であるために光と電子との衝突が頻繁に生じ、光が直進できない状態にありました。このときに光は衝突によってそれ以前に持っていた情報を失ってしまうため、光による情報伝達は不可能です。つまり、光による観測ではこの時代のことを調べることはできないということです。ビッグバンからおよそ 40 万年後になると電子は陽子と結合し水素原子が生成されるようになります。これを「宇宙の晴れ上がり」といいますが、これによってはじめて光は直進できるようになり、情報を伝えることができます。この、最後に電子に散乱され、晴れ上がった宇宙を直進できるようになった光が現在宇宙マイクロ波背景放射として観測されています。ビッグバン宇宙論によれば重力波は光よりも先に直進できるようになったとされているため、将来的に宇宙重力波背景放射の観測が可能になれば、宇宙マイクロ波背景放射が発せられた時代より前のことがわかるようになる日が来るかもしれません。

【小野寺仁人 韓国・延世大学(2008年 4月)】

 

図 2 宇宙の晴れ上がり前後の陽子 ( 赤 )、電子 ( 水色 )、光子 ( 黒線 ) の様子を模式的に表した図です。晴れ上がり以前の黄緑の領域では光子はエネルギーの高い電子によって散乱されてしまうためまっすぐ進むことができませんが、宇宙の晴れ上がりを迎えて陽子と電子が結合して水素原子になると光はまっすぐに進むことができます。
( http://abyss.uoregon.edu/~js/ast223/lectures/lec22.html を書き換えて転載 )

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