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体節のでき方

 私たちヒトを含めた脊椎動物の特徴は、脊椎骨を体の中心にもっているということです。脊椎骨はレントゲン写真や、骨格標本などで見たことがあると思いますが、同じような骨がつながって構成されています。その 1 つ 1 つの骨の単位は、胎児が発生する過程で形成される体節という単位から由来します。体節とはその名のごとく体の節を作る源です。この体節のでき方は非常にダイナミックで多くの発生生物学者の研究の対象となっています。体節の基になる細胞は実は体の一番後ろの尾部 原始索条または尾芽から生まれます。そこで細胞が増殖して前へ前へと押し出されていきます。分節する前の細胞は未分節中胚葉と呼ばれます。前のほうにいる細胞が古い細胞でこれらが成熟すると固まりを作って分離します。この単位が体節です。体節は、中胚葉細胞の塊で、分節後、細胞は回りの組織から分泌される誘導因子に応答して、体節の中での場所に従って 3 種類の細胞に分化します。最も背側の細胞は皮節と呼ばれ、皮膚の真皮層を、それより内側の細胞は筋節と呼ばれ骨格筋に、そして最も内側の細胞が硬節と呼ばれ脊椎骨に分化するのです 図 12 参照 )。

図 1 体節形成過程
図 2 体節形成の模式図
マウスの体節形成過程を模式的に示す。体節は未分節中胚が分節することにより前方から順次形成される。形成された体節は成熟すると分化して筋肉や脊椎骨を形成する。


 ひとたび体節形成が開始されると、一定の時間間隔で一定の大きさの体節がくびれきれるように形成されていきます。ちょうど羊羹を順番に一定の大きさで切っていく感覚です。この間隔は動物によって異なっています。例えばヒトでは約 8 時間ごとに、マウスでは 2 時間ごとに形成されます。また作られる体節の数も動物によって異なり、ヒトは 30 個、マウスは 60 ~ 65 個、ヘビになると何百という数が形成されます。さて問題は、生物はどのようにしてこの分節のタイミングを計っているのでしょうか? これはまだ完全に明らかにされていません。しかし最近体節は自らの分節のタイミングをはかる時計機構をもっていることが明らかにされつつあります。すなわち、マウスの体節細胞は 2 時間周期で遺伝子の発現を変化させているというのです。細胞が生まれると遺伝子発現が開始されます。そしておもしろいことに近くの細胞は同じ周期で発現を変化させる同調化機構があると考えられます。そこであるいくつかの細胞集団が同じタイミングで遺伝子を発現することにより、連続的に遺伝子発現のタイミングが異なった細胞集団が形成されることになります。そしてこの違いが分節を引き起こす源になると考えられています。このとき発現する遺伝子をノックアウトしたマウスでは分節がうまく起こらずに脊椎骨が癒合した変異が起こります 図 3 参照 )。最近このような遺伝子の変異がヒトの脊椎骨癒合症の原因になっていることも明らかになってきています。

  【相賀裕美子 国立遺伝学研究所(2008年 4月)】

 

図 3 体節特異的遺伝子 ( Mesp2の発現とその遺伝子欠損マウス
転写因子 Mesp2 は分節する直前の未分節中胚葉で 2 時間周期で発現する A )。この遺伝子のノックアウトマウスでは分節化がおこらず B )、 その結果脊椎骨が癒合するC )。+/+ : 野生型、-/- : Mesp2 ノックアウトマウス、DM : 皮筋節、11.5 dpc : 胎生 11.5 日

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