2022年【序文】
新型コロナウイルス感染症が,いまだ世界的に猛威を振るっていますが,ワクチン接種者数も増え,東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が成功裡に開催されるなど,明るい話題もみられるようになりました.2022年がコロナ禍を克服する年になることを願っています.
理科年表2022では,例年どおり掲載データのきめ細かい改訂や表示の工夫が随所でなされています.暦部では,惑星の等級算出方法の見直しを行いました.約100年前にその存在が予言され,多くの研究者が追い求めてきた重力波は,2017年の初観測後,観測例が次々と報告されています.天文部では,「重力波」の項目を新設しています.トピックスでは,「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの土壌サンプルから何がわかったのか,現時点での成果を解説しています.
気象部では10年ぶりの全面改訂を行っています.平年値は30年間の平均値でまとめられ,10年ごとに更新されます.これまで「1981年から2010年までの平年値」を採用してきましたが,2022年版から「1991年から2020年までの平年値」に更新されます.「異常気象」という言葉が使われ始めたのは1990年と言われ,それ以降,気温は上昇傾向にあり,突発的な豪雨もたびたび起こるようになりました.平年値は,日本の気象データの基準となりますので,直近10年間のデータの入れ替えで,基準値がどのくらい変化しているのか,あるいはしていないのか,ご注目ください.
物理/化学部では,最新の文献に基づき,イオン化電位,放射性同位体の半減期の数値を更新しています.地学部では,世界の有名な大河,湖沼の場所が一目でわかるように地図を追加しました.また,最新情報に基づき,いくつかの山の標高が改定されています.
生物部では,隔年で「動物分類表」と「植物分類表」を交互に掲載してきました.2022年版は"動物の年"になりますが,「動物分類表」の他,「原核生物分類表」「ウイルス分類表」を加えています.核を持たない単細胞生物を原核生物と呼び,大腸菌などの細菌や地球原始から生息する古細菌が挙げられます.謎の多いこれらの生物は,種類や分類も常に変更されていますが,現時点での最新の情報をまとめています.トピックスでは,最新技術を用いた古代人の核ゲノムの解読によって明らかになってきた私たちの祖先ホモ・サピエンスの進化を取り上げています.
近年,気候変動が私たちの生活にも大きな影響を与えています.環境部では,気温や海水温の推移,温室効果ガスの濃度変化などの長期にわたる観測結果を前半に,動植物数の推移や作物の収穫量,魚介類の漁獲量などを後半に取り上げており,前半と後半を見比べることで相関関係が見えてくるかもしれません.また,人の健康やごみ問題なども環境の一部と捉え,項目を設けています.発がん物質は年々増加しており,最新の情報に基づく一覧表を掲載しています.
理科年表は,情報だけでなくアイデアの宝庫です.自然科学の範疇を超えて,広く人間社会に役立つものとなっています.どうか日本の英知の結晶である理科年表を,皆様の仕事,研究,勉強などに広く役立ててください .
2021年10月
国立天文台 台長 常 田 佐 久