2023年【序文】
2022年も新型コロナウイルスによる影響が続く年でしたが,在宅勤務の広がりなど社会的な変革ももたらしつつあります.2023年がこれらの新しい生活様式が定着し,安全な活気ある年となることを願っています.
理科年表2023のおもな改訂点をご紹介します.平成8(1996)年版から暦部に掲載されている「ユリウス日」は天体観測などで便利に使われるのですが,皆様にはあまり馴染みがないかもしれません.今回,あらためてトピックスにてユリウス日について解説しています.同項目には換算表が掲載されていますので,試しに自分の生年月日をユリウス日で求めてみるのはどうでしょうか.天文部の「近距離の恒星」では,赤経,赤緯,視差,固有運動,視線速度を,最新の位置天文観測衛星Gaiaで得られたデータに更新しました.「超新星」では,初めて見つかった電子捕獲型の超新星2018zdを追加し,トピックスでも詳しく解説しています.
気象部に掲載されている観測データはおもに平年値(30年間の平均値)で構成されていますが,最高値(最低値)をまとめる項目では,この1年間でデータの更新があると入れ替わります.最高気温が1℃以上上がっていたり,日降水量が20 mm近く,年降水量が100 mm以上増えたり,降雪の初日が数日遅れ,終日が早まるといった変化などが見て取れますが,これらの変化は地球温暖化の影響なのでしょうか.
物理/化学部では,最新の文献などに基づき,数値や情報を更新しています.地学部では,「地質年代表」に2020年に認定されたチバニアンを加え,最新の年代表に更新しました.また,「日本付近のおもな被害地震年代表」は,文献を再整理し大幅に改訂されています.
生物部の「藻類分類表」を最新の情報に更新していますが,近年の健康ブームから藻類の栄養価が注目され,バイオ燃料や化粧品への転化など,食と健康,環境,産業など多方面で注目されています.また,「キイロショウジョウバエの脳と食道下神経節に存在する神経ペプチド」,「シロナガスクジラの心拍数」といった項目を新設しました.トピックスでは,新種の環形動物「キングギドラシリス」について取り上げています.日本の有名な怪獣の名前が実際の生物名に使用されるのは面白いですが,実際にどのような生物なのか,写真とともに解説していますのでご覧ください.環境部では,長期にわたる観測結果や最新の数値など,「環境」に関するあらゆる情報を掲載しています.トピックスでは,未知なる感染症とワクチン開発について解説しています.
さまざまな不安が渦巻く時代こそ,正しい情報,新しい情報が重要となっています.理科年表は,毎年のきめ細かい改定により,精度の高い最新の情報の提供という点で,ますます充実しています.どうか日本の英知の結晶である理科年表を,皆様の仕事,研究,勉強などに広く役立ててください.
2022年10月
国立天文台 台長 常 田 佐 久