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地球型系外惑星のための新装置稼働:トランジット観測用宇宙望遠鏡TESS とすばる望遠鏡用赤外視線速度観測装置 IRD

 TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)は,2018年4月に打ち上げられたNASAのトランジット系外惑星探索衛星である.口径10.5cmの可視光広視野カメラを4台搭載しており,一度に24度×96度の視野(これをセクターと呼ぶ)を観測することができる.TESSは黄道面に対する南北の空をそれぞれ13のセクターに分け,各セクターを27.4日ずつ観測する.当初は2年間の観測が予定されており,最初の1年で南天,つぎの1年で北天を観測し,ほぼ全天のトランジット系外惑星の探索を行う計画だった.しかし1年目の観測で数々の成果が示された結果,さらに2年以上計画が延長されることが決定している.
 TESSは最初の2年間の観測で,2000個を超えるトランジット系外惑星候補を発見した.そして,発見されたトランジット系外惑星候補が本物の惑星かどうかを調べる追観測が世界中で行われている.TESSは太陽系の近くにある赤色矮星(太陽の数分の1以下の質量を持つ低質量な恒星)を公転する小さなトランジット系外惑星の発見で威力を発揮している.実際に,地球と同程度の大きさの岩石惑星とみられる惑星も赤色矮星のまわりで複数発見されており,その中には生命居住可能惑星「TOI-700d」もある.ほかにも公転周期1日未満の海王星型惑星など,これまでにない性質を持つ惑星の発見も相次いでおり,これからも多様な惑星の発見が期待されている.
 IRD(InfraRed Doppler)は,すばる望遠鏡用に開発された,近赤外線での視線速度法による,低温の赤色矮星まわりに存在する地球型惑星探査のための観測装置である.赤色矮星は軽いため,軽い惑星でも視線速度の変化が大きく出るため検出がしやすく,ハビタブルゾーン内に存在する地球型惑星を発見することが可能である.低温度な赤色矮星の観測は可視光よりも赤外線が有利となる.IRDは地球型惑星探査のために,2018年2月からすばる望遠鏡を用いた大規模サーベイ観測を開始し,これまで未開拓の約60個の低温度赤色矮星に対して集中的な視線速度観測を行い,ハビタブルゾーン内に存在する地球型惑星の発見や,さまざまな系外惑星の分布を明らかにすることで惑星形成と進化の理解を目指している.IRDは実際の観測で2m/sという高精度視線速度測定を達成するために,レーザー周波数コムや,安定性を追求した光学系,補償光学・ファイバーの利用といった最先端技術を応用して開発されており,近赤外線では最も安定した視線速度測定が可能となった.
 視線速度観測以外にも,高分散赤外線分光器としてさまざまな系外惑星大気の組成を詳しく調べることや,惑星の自転などこれまでは難しかった観測も可能であるため,系外惑星の理解を多様な側面からも進めることができると期待されている.

 

【成田憲保,小谷隆行】


図 TESS想像図(Credit:NASA’s Goddard Space Flight Center)

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