暦部「太陽」「月」「水星」「金星」「火星」他をくわしく解説!
赤経・赤緯とは?
理科年表暦部をのぞいてみると、赤経や赤緯という言葉がやたらとたくさん出てくる。人によってはあまりなじみのない言葉かと思われるが、これらは天体の位置を表わす一般的な手法で、太陽や月では毎日、水星は 5 日ごと、その他では 10 日または 20 日ごとに掲載されている数値である。
皆さんは社会科の授業などで、東経 ○○ 度とか北緯 □□ 度とかいう言葉を聞いたり、地図や地球儀に縦横の線が引いてあるのを目にしたりという経験はないだろうか。地球上の位置はこの経度と緯度で表現することができる。天体の位置もこれと同様に、地球の重心を原点、自転軸を南北とする仮想の球 (天球)を考え、その経度と緯度で表現することができる。この場合の経度を赤経、緯度を赤緯と呼ぶ。
天球と自転軸を延長した方向は地球のそれになぞらえて、それぞれ天の北極、天の南極といい、原点を通り自転軸に垂直な面と天球の交点も、天の赤道と呼んでいる。赤緯は天の赤道を 0°とし、北は + 南は - でそれぞれ 90°まではかる。赤経は春分点 (後述)を基準として数えるが、 24 h = 360°の関係 (地球は 24 h[時間]で一回りすなわち 360°回転する )を利用して単位を変換し、 0 h から 24 h までのようにはかる。このように地図上の経度とは若干はかり方が異なることに注意されたい。ある天体より 1 h だけ赤経が大きい天体はその天体が南中*してから約 1 時間後に南中するという関係にある。
天体の3次元的な位置
ふたたび理科年表暦部をのぞいてみると、赤経・赤緯の隣に距離も掲載されている。これはすなわち「その天体は赤経 ・ 赤緯で表される方向にその距離だけ離れている」という事であるから、これらの数値を使って地球から見たその天体の3次元的な位置がわかることになる**。
天の北極の方向を Z 軸、春分点の方向を X 軸とすると、赤経 α、赤緯 δ、距離 r の天体の座標は以下のように書ける。なお、太陽の地心距離は下欄に載っているが、大まかには r = 1 としてよい。
X = r cos α cos δ
Y = r sin α cos δ Z = r sin δ |
たとえば、平成 18 年 1 月 5 日の水星の場合は、
このようにしてプロットしたもの (平成 18 年版の数値を使用)が下図である。左側の図では天の北極方向から、右側の図では春分点方向から眺めている。妙な模様のようになっていて、おそらく皆さんの想像とはだいぶ異なる図になっているのではなかろうか。これは一体なぜか。
太陽を中心に描く
そのわけは地球を中心に固定した状態で図を書いているためであり、すべての天体が地球の周りを運動する、いわば天動説的な見方になっているためである。これを通常よく見かける太陽の周りを惑星が回っている図にするには 3 次元座標の原点を地球から太陽に移せばよく、具体的には各天体の座標から太陽の座標を引けばよい**。このようにして得た値をプロットすると下図のようになる。
X’ = X - XSun Y’ = Y - YSun Z’ = Z - ZSun |
この方法で軌道全体を描くには公転周期の分だけデータが必要になるが、 1 年分のデータだけでも太陽系の天体が太陽の周りを同じような面上で運動している様子がわかると思う。この共通な面のことを黄道面という。地球から見ると(あるいは天球上では )黄道は太陽や惑星の通り道として描くことができる。赤経の原点である春分点は黄道と天の赤道の交点の 1 つである。
ところで、冥王星も同じようにプロットしてみると、他の天体とはだいぶ異なる軌道を描いているのがわかる。近年、海王星以遠の領域に冥王星と似たような天体が多数見つかっており、冥王星はその未知な領域にある天体群の代表格となることが 2006 年 8 月の国際天文学連合総会で決議されたことは記憶に新しいことであろう。冥王星発見から今日までの軌跡を追うというのも面白いのではなかろうか。
【片山真人 国立天文台天文情報センター(2006年11月)】
* 天体が真南に見えること、その天体が最も高く見える。
**視赤経や視赤緯には歳差 ・ 章動・光行差などのさまざまな効果
が含まれており、厳密には若干正しくないがここでは無視する。