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天文部「太陽系小天体」をくわしく解説!

 太陽系小天体のうち、主に岩石からなるとされる天体が小惑星である。惑星の定義の制定後は、 2 番目に発見された Pallas ( 直径 520 km ) が最大の小惑星となった ( 徹底解説3 つの準惑星の素顔』参照 )。

 図 1 は理科年表から小惑星の軌道分布を表すグラフを再録したものである 理科年表 : 太陽系小天体 *1 の「小惑星のページ」 *2 より )。横軸は天文単位を単位とする軌道長半径で、地球の軌道長半径の 1 天文単位から木星の軌道長半径5.2026 天文単位 より外側の 6 天文単位までとってある。縦軸は、軌道長半径が 0.01 天文単位ごとにおける、小惑星の度数分布を示す。

図 1 小惑星の軌道分布

 

 図のように、火星の軌道 軌道長半径 1.5237 天文単位) と木星の軌道の間にあって、小惑星が特に多く存在する領域を小惑星帯と呼ぶ。黄道面上の空間分布を見ると、確かに帯のように見える。しかし、図 1 の度数分布のばらつきからわかるように、実際の軌道分布としては小惑星が多くある領域と、ほとんどない領域が存在する。小惑星がほとんどない領域は、発見者であるアメリカのカークウッド D. Kirkwoodの名前をとってカークウッドの空隙 カークウッドの間隙、カークウッド・ギャップとも と呼ばれる。

 

図 2 小惑星の空間分布。 2007 年 10 月 1 日における黄道面上の小惑星 黄色い点と周期彗星< の記号 の位置を示す。中心に太陽、その外側には水星 Mercury )、金星Venus )、地球Earth )、火星Mars )、木星Jupiterの軌道が描かれている。( http://ssd.jpl.nasa.gov/?ss_inner より転載 )

 

 図 1 の上部には、小惑星が一日に運動する量を秒角で表した平均運動 *3 が表示されている。そのすぐ下は、それぞれの小惑星の平均運動と木星の平均運動 300"/日の比を示している。例えば左端の 4 : 1 とは、その位置の小惑星の平均運動が木星を 1 とすると 4、つまり 1200 秒角/日であることを意味する。

 平均運動の比と度数分布からわかるように、小惑星の分布と平均運動の比の位置には深い関係がある。平均運動の比が 3 : 1 や 5 : 2 の位置は、小惑星が少ないカークウッドの空隙に当たり、一方で周囲に小惑星はないが 3 : 2 や 1 : 1 の位置には小惑星が存在しているのだ。数が少ないため図 1 ではわかりづらいが、実は 4 : 3 の位置にも小惑星はある。 3 : 2、 4 : 3、 1 : 1 の位置の小惑星は、それぞれ Hilda 群、Thule 群、Trojan 群と呼ばれ、軌道が確定した各小惑星の数は「小惑星」ページに掲載されているので、参照して欲しい。

 平均運動の比が整数で表される小惑星は、木星と平均運動共鳴となりうる。共鳴は共振とも呼ばれ、ある振動系に固有振動数に近い周期的な力が加わるとき、その振動系が大きな振幅で振動するようになる現象を指す。ブランコを漕ぐさいに、適当なタイミングで足を前後に動かしてやると、揺れが大きくなるのが共鳴の一例だ。固有振動数に近い周期の強風にあおられたつり橋が、突然に倒壊した事件も共鳴現象である。

 

図 3 木星と 3 : 2 の平均運動共鳴にある小惑星 Hilda が木星を追い越す位置

 

 木星と平均運動共鳴にある小惑星は、臨界引数 *4 と呼ばれる角度変数が大きく振動する。一方で、平均運動の比が整数で表されることは、いつも決まった位置で小惑星は木星と遭遇することを意味する。例えば、 3 : 2 や 4 : 3 の平均運動共鳴にある Hilda 群や Thule 群の小惑星は、いつも近日点の付近にきたときに木星を追い越す。近日点にいるということは、太陽に最も近い、言い換えると木星からは最も遠い。もし Hilda 群の小惑星が遠日点で木星を追い越すのであれば、そのときに木星に非常に近づくため、木星の引力の影響によって軌道は大きく変化してしまうであろう。つまり、平均運動共鳴にあることで、木星の引力の影響を強く受けないような配置を保っていることになるのだ。

 しかし、図 1 からわかるように、木星と平均運動共鳴にある小惑星が必ずしも安定であるわけではない。カークウッドの空隙は、 3 : 1 や 2 : 1 の平均運動共鳴の位置に相当する。実は、 3 : 1 や 2 : 1 の平均運動共鳴の位置では、小惑星の離心率や軌道傾斜角が大きく変化する可能性を持った、木星との別の共鳴永年共鳴が起こり得る。ひとたび離心率が大きくなれば、木星に近づくことになり、大きな引力を受けて不安定になって、軌道を外れてどこかへ飛んでいってしまうということが、コンピュータ・シミュレーションによって示されている。

 

図 4 太陽─木星と正三角形をなす Trojan 群

 

 平均運動の比が 1 : 1 の Trojan 群は、木星と同じ軌道長半径を持つ。ただし、その経度方向の位置は、太陽 ─ 木星 ─ 小惑星が正三角形つまり内角は各 60 度の頂点付近に制限されている *5。このような正三角形の頂点に天体が存在し得ることは、 1772 年にフランスのラグランジュJ. L. Lagrange が証明をした。ところが実際に対応する天体が見つかっていなかったため、理論上の興味と考えられていたという。その後、 1906 年 2 月 22 日にドイツのウォルフM. Wolf が最初の Trojan 群小惑星 Achilles を発見すると、その後もぞくぞくと見つかり出した。現在では、天体力学上の理論的研究テーマだけでなく、その起源や物理的特性などを探る太陽系科学の重要な研究対象となっている。

 このように、一様ではない小惑星帯の分布は、木星との力学的な関係が生み出したといえよう。類似の現象は、木星や土星の衛星系をはじめ、海王星と準惑星の冥王星 徹底解説 『3つの準惑星の素顔』 )、海王星と太陽系外縁天体平成 20 年版以降の理科年表 『太陽系小天体』 中の 『太陽系外縁天体』など、太陽系のいたるところで見られることに注目したい。

【布施哲治 国立天文台・ハワイ観測所(2008年 4月)】

 

*1 「太陽系小天体」の名称は、平成 20 年版より加わった。

*2 平成 8 年1996 年版以降に掲載。ただし、平成 19 年版ではスペースの関係で Ceres の画像となっている。

*3 平均運動 n は軌道長半径 a のみに依存し、n2 a3 = G ( M + m ) の関係がある。ここで G は万有引力定数 ( 重力定数 )、 M は太陽質量、m は小惑星の質量。

*4 臨界引数は小惑星と木星の平均経度 平均運動で動くと仮想した場合の経度と小惑星の近日点経度で表される。

*5 実際の小惑星は、正三角形の頂点の周りを 180 年の周期で回る。この運動を秤動ひょうどうという。

 

参考文献】
(1) 古在由秀 編『月と小惑星』現代天文学講座 2、恒星社

(2) 小尾信彌、古在由秀、守山史生 編『太陽系』、共立出版

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