暦の改訂について 2003年版(平成15年版)
1985年に行われた暦の改訂以後,観測技術の向上や精度の高い理論の再構築が行われてきた.高精度の惑星の基本暦や章動理論が新しく形づくられ,より厳密な暦の作成が可能となった.また,法律の改正に伴い各地の経度・緯度の値が世界測地系を基準とした値に変更された.これらの事情を考慮し,より精度の高い暦の提供を目的として,2003年の暦については大幅な改訂を行った.
1)惑星基本暦の改訂
暦の基本となる太陽・月・惑星の位置・速度を計算する惑星の基本暦をDE200/LE200に代えて同じシリーズの最新版であるDE405/LE405に変更した.DE(Development Ephemeris)は米国ジェット推進研究所(JPL)が惑星探査用に編纂した太陽・月・惑星の数値積分による暦で,DE405/LE405では光学観測,超長基線干渉計(VLBI),惑星探査,月レーザ測距などの観測結果に最も適合するように太陽・月・惑星の初期の位置・速度及び質量や,天文単位などの天文定数が決められている.そのため,採用された定数は国際天文学連合(IAU)が1976年に定めた天文定数系と異なる.DE405/LE405の精度は内惑星で約1ミリ秒角と推定されている.また,暦の基準座標系はIAUの正式な座標系である国際天文基準座標系(ICRF)であり,J2000.0の平均赤道と春分点に基づく座標系とはわずかに異なっている.
2)章動理論の改訂
章動の理論はIAU1980章動理論に代えて,Shirai and Fukushima(2001AJ)の章動理論を採用した.この理論は過去約20年間のVLBI観測によく合うように構築された理論で,他の章動理論(IAU2000A)との差は今後20年間で黄経における章動で1.5ミリ秒角,黄道傾斜における章動で0.6ミリ秒角以下である.この章動理論には歳差(IAU1976)に対する補正が含まれている.
3)測地基準系の変更
「測量法および水路業務法」の一部改正(2002年4月1日施行)に伴い,地球の形状や地球上の位置表示の基準として従来の日本測地系に代わり世界測地系を用いることになった.これにより東京および各地の経度・緯度は世界測地系に基づく値に変更した.その値はそれぞれ関係する箇所に示している.
改訂に伴い,太陽の黄経,黄緯,距離,視半径,章動,黄道傾斜角を4日間隔の表示とした.2002年の暦までは黄経における章動,黄道傾斜における章動,および黄道傾斜角の値には短周期項を含めていなかったが,2003年の暦では章動理論で与えられている全周期項が含まれている.赤経における章動である分点均差も全周期項が含まれている.なお,毎日の値は高次の補間により求めることができる.