太陽系に最も近い恒星を周回する地球型惑星の発見 2018年版(平成30年版)
太陽型恒星を周回する確実な系外惑星が発見されたのが1995年.それからわずか20年ほどの間に,3500個を超える確認済み系外惑星が発見されてきた.
発見数の増加だけでなく,太陽系の惑星とはまったく違う惑星,たとえば,恒星のごく近傍を周回するために1000Kを超える灼熱の木星(ホットジュピター),地球と海王星の中間サイズの惑星(スーパーアース),海王星よりさらに外側の軌道を周回する木星の数倍以上の質量を持つ遠方巨大惑星など,いずれも太陽系には存在しないタイプの惑星の存在も明らかになった.
そのような中で,ハビタブルゾーン(HZ)に位置する地球あるいはスーパーアースサイズの惑星に興味が集まっている.しかし,ケプラー衛星が発見した多数の地球サイズの惑星のほとんどは恒星の近傍に位置しHZから外れている.
また,HZに位置する地球サイズの惑星約20個はいずれも地球から数百光年以上と遠いため,水や生命の痕跡に迫るための詳細な観測が困難である.つまり,太陽系に近い恒星まわりのハビタブル地球型惑星の探査が喫緊の課題であった.
太陽系に最も近い太陽型恒星は,南天にあるケンタウルス座α星である(図1).
図1 ケンタウルス座α星とプロキシマ・ケンタウリ星(出典:ESO)
この星は海王星程度の軌道を周期80年で回る2つの太陽型恒星(αCen A, B)からなる連星系である.1915年にこの星から2度角ほど離れた位置に約11等の暗い星が発見され,後に距離1.295パーセクの太陽系に最も近い恒星であることが確定した.これがプロキシマ(Proxima Centauri)であり,αCen A, Bとともに3重星系を構成していると考えられている(別名αCen C).
プロキシマは0.12太陽質量,0.0016太陽光度,約3000KのM型矮星(赤色矮星)である(図2).このような太陽質量の0.5~0.08倍のM型矮星は,銀河系を構成する恒星の約75%を占めている.
図2 恒星プロキシマの可視光画像(左)と赤外線画像(右)の比較.可視光では約11等と視野内の他の星と比べても目立たない恒星だが,赤外線では約5等と明るく際立っている.赤色矮星系は今後,赤外線観測がより重要となる.
じつはプロキシマまわりの惑星の探査はいくつものチームによって行われてきた.2000年からは欧州南天文台ESOのVLT望遠鏡も使われたが,惑星と結論付けることができずにいた.そのような中で,ロンドン大学のG. Anglada-Escudらのチームは,2016年1月19日から3月31日までのほぼ毎晩,ESO 3.6m望遠鏡に搭載された可視光視線速度分光器HARPSを用いて集中的観測を行い,1.4±0.2 m/sという微小速度変化の原因が,周期11.186±0.002日で恒星を周回する惑星であることを確実にした.前述のプロキシマの恒星自体の発見から約100年後のことで,惑星はプロキシマbと名付けられた.
プロキシマbは,トランジットを起こさないため,視線速度法から質量下限値m sin i = 1.3(±0.2) 地球質量が求められている.また,軌道長半径a = 0.049±0.005 auは,恒星のHZに位置する.太陽のHZは地球軌道のあたりだが,プロキシマbは恒星が暗いため約0.04 auから0.08 auがHZの範囲となる.
また,恒星に近いため惑星は恒星に対して常に同じ面を向ける潮汐ロックを受ける.その結果,プロキシマに向かう面が高温の岩石に,反対側は氷に覆われたアイボール・アースと呼ばれる惑星になると考えられる.その昼夜の境界では液体が存在しうるので,ハビタブルな惑星となる可能性も高い.
一般に赤色矮星は活動性が高いが,活動性の高さとハビタビリティーについてはまだよくわかっていない.観測的には太陽型星まわりより赤色矮星のほうがどの手法においても軽い惑星を発見しやすいため,近傍赤色矮星の観測が今後急速に進むと期待される.実際,2017年2月には約12パーセクの距離にあるM型矮星トラピスト1に7個もの地球型惑星が発見され,少なくとも3個はHZに位置すると示唆された.この多重惑星系ではトランジットの時間変化から質量も推定されており,密度も求められた.地上大望遠鏡やJWST宇宙望遠鏡などで今後,詳細観測を進めることが可能な地球型惑星系として極めて重要な発見となった.
【 田村元秀 】