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電波望遠鏡ALMAの初期成果 2014年版(平成26年版)

 電波天文学に新時代が到来した.2013 年 3 月に ALMA は開所式を迎えた.ALMA は,日米欧の国際協力で南米チリの 5000 m の高地にパラボラアンテナを 66 台展開する巨大電波望遠鏡である. 初期科学観測が 2011 年 9 月 30 日に開始され,2013 年初から本格運用を開始している.他の電波望遠鏡を圧倒的に凌駕する性能を,特にその感度において示している.執筆時までに得られた最新の科学成果を紹介する.

惑星系の形成
 若い恒星 HD142527 を観測し,原始惑星系円盤にリング状の空隙があることを発見した [1] .大質量星形成領域 G35.20-0.74N を観測し,18 太陽質量の大質量連星系をまわる半径 2500 天文単位以上の巨大な Kepler 回転円盤を見出した [2] .また,うみへび座 TW 星のまわりの原始惑星系円盤において,史上はじめて「雪線」が観測された [3] .主系列星においても,惑星の誕生に関連する成果が出ている.フォーマルハウトのまわりに幅の細い「ダストのリング」を発見した [4] .ハッブル画像では内側がほぼ一様に光っているのに対し,ALMA 画像は大きく異なる.物質分布をより ALMA が正確に表していると考えられる.リングの内外に「羊飼い惑星」が存在し,リングが形成されている可能性が指摘されている.

恒星進化の終焉
 漸近赤色巨星「ちょうこくしつ座 R 星」を CO 分子輝線で観測し,謎の渦巻き模様を発見した [5] .中心の赤色巨星が連星系をなし,渦巻状に物質が放出されていると結論づけた.一番外側のリングは 1800 年前の熱的パルス (平常時の 30 倍増の質量放出 ) の名残である.恒星進化晩期の質量放出の星間物質への還元を直接観測したものであり,大変興味深い.

図 ちょうこくしつ座 R 星の CO(3-2 ) 輝線による ALMA 画像 [4]

銀河形成と進化の解明
 赤方偏移 4.76 のサブミリ波銀河からの窒素輝線 [ N II ] を観測し,化学進化を調べた.窒素輝線 [ N II ] と炭素輝線 [ C II ] の強度比を遠方銀河で初めて決定し,その値がわれわれの近傍の銀河の値に近いことを発見した [6] .ビッグバンから 10 億年で急速に化学進化が進んでいるという事実がわかった.赤方偏移サーベイを行い,超高光度スターバースト銀河の最遠記録を塗り替えた (赤方偏移 5.7 ) [7] .また,赤方偏移 4 以上のスターバースト銀河を少なくとも 10 個発見し,スターバースト銀河がこれまで考えられていたよりも遠くにも存在することが明らかになった.高分解能を生かしたサブミリ波銀河の観測から,星形成率に 1000 太陽質量 / 年という上限があるらしいこと [8] ,電離炭素輝線 [ CII ] の光度関数の明るい側の分布が現在から赤方偏移 4.4 の過去の間で大きく変化しているらしいこと [9] が明らかにされた.波長 1.3 mm でのミリ波源ナンバーカウントを行い,この波長の宇宙背景光の 8 割が点源に分解できることを示した [10] .「アンテナ銀河」 を観測し,潮汐効果で誕生した分子雲アームで活発な星形成が起こっていることを明らかにした [11] .合体銀河 VV114 で数珠なりの HCN 輝線雲および HCO+ 輝線雲を検出し,銀河衝突によりブラックホールと星形成がともに活発になる様子を捉えた [12]

宇宙物質進化
 原始星連星系 IRAS16293-2422 のごく近くにおいて糖類のグリコールアルデヒドを発見した.これは,太陽質量程度の低質量原始星におけるこの分子の初検出である [13]
 2013 年中にはすべてのアンテナがそろう.現在アンテナ配置は 1 km 程度に抑えられているが,今後最大ベースライン 18.5 km に向けて広げられていき,空間分解能においても未踏の世界に入る.ALMA は宇宙の謎を飛躍的に解明すると期待される.

【 立松健一 】

[1] Casassus et al. 2013, Nature, 493, 191.
[2] Sanchez-Monge et al. 2013, A&A, 552, L10.
[3] Qi et al. 2013, Science, 341, 630.
[4] Boley et al. 2012, ApJ, 750, L21.
[5] Maercker et al. 2012, Nature, 490, 232.
[6] Nagao et al. 2012, A&A, 542, L34.
[7] Vieira et al. 2013, Nature, 495, 344.
[8] Karim et al. 2013, MNRAS, 432, 2.
[9] Swinbank et al. 2012, MNRAS, 427, 1066.
[10] Hatsukade et al. 2013, ApJ, 769, L27.
[11] Espada et al. 2012,ApJ, 760, L25.
[12] Iono et al. 2013, PASJ, 65, L7.
[13] Jorgensen et al. 2012, ApJ, 757, L4.

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