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「はやぶさ」によって持ち帰られた小惑星イトカワサンプルの初期分析 2013年版(平成25年版)

 宇宙航空研究開発機構の小惑星探査機 「 はやぶさ 」 は 2005 年 9 月に S 型小惑星イトカワに到着、約 2 ヵ月間の観測および小惑星表面へのタッチダウンを行った。サンプル採取は計画通りには行われなかったが、サンプルカプセルは 2010 年 6 月に地球に帰還し、2012 年 6 月の時点で 2000 個ほどのイトカワの表面に由来する粒子 最大数 100m? で多くは 10m? 以下が見出されている。小惑星は太陽系形成時に惑星まで成長できなかった小天体であり、サンプル分析により小惑星物質に残された太陽系形成時の情報を読み解くことができる。サンプルは小惑星から初めて採取されたものであるだけでなく、月に次ぐ地球以外の天体の表土 レゴリス粒子でもあり、小惑星表面プロセスの情報も有している。
 サンプルは選抜された国内の研究機関に配布され、2011 年 1 月から 1 年間初期分析が行われた。大学合同チームはサンプル帰還前から準備を進め、30-180m? の約 60 粒子の初期分析を行った。これにより、反射スペクトルをもとに推定されていた隕石と小惑星との関係が物質科学的に実証され隕石の起源に最終的な解決を与えるとともに、大気のない小天体表面でのさまざまなプロセスを明らかにした  [1-8]。その概要図1は以下のとおりである。



 ( 1粒子は普通コンドライトの中でもLLコンドライトと呼ばれる隕石に対応する [ 1-3,5,8]。多くは熱平衡組織を持ちLL5 または LL6、平衡化の程度の低いもの LL4が混合している[1,5]2粒子の持つ熱履歴の解析最高温度は約 800℃[1]などにより、20 kmを超える母天体の大規模破壊とその一部破片の再集積でイトカワが形成されたというラブルパイルモデルを物質科学的に実証した。( 3親鉄元素組成は原始太陽系初期の元素分別プロセスの痕跡を持つ [3]4粒子への太陽風希ガスの打ち込みが検出され、レゴリス粒子の年代を見積った150 年 - 300 万年 )[6]5粒子表面に鉄ナノ粒子を発見し、小惑星反射スペクトルを変化させる原因である宇宙風化を実証した [4]63 次元形状により粒子は衝突破片であることを示し、粒子の摩耗の痕跡からメテオロイド衝突の地震波誘起による粒子流動の可能性を指摘した [5]7炭素質物質や有機物は見出されていない[7]

 初期分析により明らかにされた太陽系史にわたる小天体の内部・表層活動史橘省吾北海道大学 の原図を一部修正した )。
 一方、母天体やイトカワの生成年代、イトカワをつくった大規模衝突の証拠、イトカワ表面での広い意味での宇宙風化 メテオロイド衝突、粒子への宇宙線打ち込み、 Fe ナノ粒子生成、粒子運動による摩耗など の統一的理解と月レゴリスとの比較、炭素質物質・有機物を含むイトカワへ降りそそぐ物質の発見など、新たな問題も提起された。2012 年 6 月から開始された国際公募分析の成果が期待される。

【土`山 明】

 [ 1]Nakamura et al., 2011. Science, 333, 1113.[2]Yurimoto et al.
, 2011. Science, 333, 1116.[3]Ebihara et al., 2011. Science, 333,
1119.[4]Noguchi et al., 2011. Science, 333, 1121.[5]Tsuchiyama
et al., 2011. Science, 333, 1125.[6]Nagao et al., 2011. Science,
333, 1128.[7]Naraoka et al., 2012. Geochem. J. 46, 61.[8]野口ら,
2012, 分析化学, 61, 299.

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