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赤外線天文衛星「あかり」 2008年版(平成20年版)

 日本初の赤外線天文衛星「あかり」(2006年2月22日打上げ)は,口径68.5cmの極低温に冷却された高感度望遠鏡を搭載し,新しい宇宙赤外線データベースの構築を主目的とする.中間赤外線から遠赤外線にかけての6バンドで全天サーベイを行い,90%以上の観測が終了した.また特定天体の詳細観測を波長2ミクロンから180ミクロンの赤外線全域で行っている.
 一般に恒星終末期にあたる赤色巨星には質量放出とそれに伴うダスト(星間塵)生成現象が見られ,恒星進化の解明に重要な現象であるが,比較的初期段階にある赤色巨星からは質量放出の兆候が発見されていなかった.「あかり」は球状星団NGC104に属する初期段階の赤色巨星を波長3ミクロンから24ミクロンの赤外線で観測し,質量放出の証拠を初めて発見した.これは主系列星から赤色巨星へ向かう恒星終末期における重要な知見である.
 小マゼラン雲中の既知の超新星残骸B0104-72.3が近赤外線,中間赤外線でも明るく,シェル状の構造をもつことを発見した.これは小マゼラン雲で初めての発見である.この天体は我々銀河系の代表的超新星残骸であるIC443に匹敵する明るさであり,水素分子や原子イオンの輝線で放射していると考えられる.小マゼラン雲は金属量の低い特異な伴銀河であるが,そこでも超新星残骸が周辺のガスを圧縮して赤外線で輝かせる相互作用をしていることがわかった.
 赤方偏移4.3のクエーサーRX J1759.4+6638からHα輝線を検出した.ライマンα輝線との強度比は放射領域(BLRと考えられる)の物理的状態の指標であるが,これは近傍のクエーサーのものと同程度であった.まだ一例であるが赤方偏移4を越える初期宇宙においてもBLRの基本的性質が変化していないことがわかった.
 北黄極近傍の約50平方分の天域を2ミクロンから24ミクロンの9バンドで精密にサーベイ観測を行い,18ミクロン帯で明るくかつ赤方偏移0.5以上の銀河の詳細なスペクトルを得た.その結果,これらの遠方銀河は近傍の同様の銀河に比べて,多環式芳香族炭化水素(PAH)の放射が強いことがわかった.PAH放射強度は星生成度の指標であるので,約60億年以上前から数十億年にわたり現在より星が盛んに生まれた時代があったことを示唆する.
 「ロックマンの穴」と呼ばれる,銀河系内ダストが極めて少ないため系外宇宙が観測しやすい天域がある.この天域の一部について遠赤外線でサーベイ観測を行い,遠方の銀河を点源として数え上げた.その結果,波長90ミクロンにおいて従来の予想(NASAのSpitzer衛星のデータに基づく)よりも銀河が少ないことがわかり,宇宙における銀河の進化史モデルの構築にとって重要な観測的制限を与えた.

【 芝井 広 】

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