太陽観測衛星「ひので」 2008年版(平成20年版)
2006年9月23日に打ち上げられた太陽観測衛星「ひので」(SOLAR-B)は,「ひのとり」,「ようこう」に続く我が国3機目の太陽観測衛星である.「ひので」には,3つの最先端の観測装置が搭載されている.可視光望遠鏡は,有効口径50cmのグレゴリアン望遠鏡で,波長域3800~6600Åを角分解能0.2~0.3秒角で観測する.これまで軌道上に打ち上げられた望遠鏡としては格段に解像度が高く,「太陽版ハッブル望遠鏡」ともいえる.光球や彩層の可視画像やゼーマン効果を利用してベクトル磁場の高精度画像を取得するが,衛星からのベクトル磁場観測も史上初めてである.X線望遠鏡は,百万度から数千万度の高温のコロナやフレア(太陽面の大規模な爆発現象)のX線画像を取得する.観測開始以来,「ようこう」の約3倍の解像度でX線輝点を分解するなど,コロナの構造をこれまでになく鮮明に捉えている.さらに,極端紫外線撮像分光装置は,コロナの10万度~1千万度のプラズマが出す輝線がドップラー効果を受けることを利用して,プラズマの動きや乱流のマップを得ることができる.ESAのSOHO衛星の類似の装置の約10倍の感度と4倍の解像度をもっている.3台の望遠鏡の性能は予想以上であり,これらの観測装置から送られてくる刻々と変化する太陽のムービー画像,とくに大気の呪縛を逃れた可視光画像は素晴らしい
(http://hinode.nao.ac.jp/).
これまでに多くの初期成果が得られているが,そのうちのいくつかを紹介したい.(1)彩層・コロナを伝わるアルベン波が初めて観測され,コロナの加熱や太陽風の加速との関連が注目される.(2)太陽の極に1kGに達する強磁場が確認され,今後,ダイナモ機構や高速太陽風の加速の理論に大きな示唆を与えるだろう.(3)光球面上に大量の水平磁場が出現・消滅を繰り返していることが発見され,局所的ダイナモによる強磁場の生成の可能性が議論されている.(4)光球ではkGを超える磁気要素が存在するが,その生成メカニズムと考えられていた対流崩壊現象が観測的に確認された.(5)彩層でジェット現象が多発していることが発見され,磁気リコネクションがコロナのみならず彩層の多様なダイナミックスを担っていることが発見された.(6)低速太陽風の光球近傍の源がX線望遠鏡で確認され,今後,低速太陽風の性質の理解が進むだろう.
「ひので」の3台の望遠鏡は,光球奥深くでの磁場の生成と表面への輸送に始まり,エネルギーの伝播に伴う波,磁場の不安定性やリコネクション,ジェットや衝撃波の関与する磁場の散逸に至る,いわば,「磁場のライフサイクル」を観測できるように設計されている.今後データ解析が本格化するにつれ,さらなる成果が期待できる状況である.
【 常田佐久 】