すばる望遠鏡が明らかにした微小小惑星の統計的特性 2005年版(平成17年版)
小惑星帯の起源と進化において衝突現象が大きな役割をしていることは,平山清次によって1918年に発見された「族」の存在が最も明白に物語っている.大きな小惑星の多くは衝突破片が自己重力で集まった“破片集積体”,微小な小惑星は単体の岩石に近く,両者の境界サイズはおよそ100m-1kmあたりにあると室内での衝突実験や流体粒子近似のモデル計算からは推定されてきた.したがって,このサイズ境界は観測的にも大いに興味があるが,従来の望遠鏡の能力では観測困難であった.最近,スローン・ディジタルスカイサーベイ(SDSS)とすばる望遠鏡の広視野カメラによる我々の観測が,直径数kmから数百mの小惑星の統計的特性をかなりの程度明らかにできたので,衝突の効果が最も顕著に現れる,サイズ分布と自転・形状分布の特性について紹介する.
SDSSは数年かけて銀河のほぼ全天サーベイを目指した観測で,その副産物として1万個以上の小惑星を検出し,直径1-2kmまでのサイズ分布を求めた.一方,すばる望遠鏡では,わずか1-2夜の観測から1000個あまりの微小小惑星を検出し,200-300mまでの小惑星のサイズ分布を調べることができた.サイズ分布の特性は,ある直径(D)より大きい小惑星の累積数を,Dのベキ乗で表したときのベキ指数(b)の値で示すことが多い.衝突によって生じる破片のサイズ分布も相似なベキ乗分布であると仮定して得られる理論値はb=2.5であるが,直径が10km程度以上の大きな小惑星のbはほぼ理論値に近かった.しかし,SDSSによるbは1.3,すばる望遠鏡による結果は,小惑星帯の内側と外側で若干異なるがb=1.0-1.3であり,微小小惑星のbはいずれも理論値より大幅に小さくなっていた.これは微小小惑星だけが何らかの原因で選択的に減少していることを意味しており,衝突破片としての微小小惑星が破片集積体に多数取り込まれたか,あるいは非等方的熱放射のために起こる長期的な軌道半径の変動(ヤルコフスキー効果)によって,微小小惑星が小惑星帯から除かれたことが原因と想像されるが,今後に解明されるべき大きな研究テーマである.他方,S型とC型小惑星とでは,不思議なことにベキ指数の値がほぼ同じであることも判明した.高速衝突では,破片分布は物性にあまり依存しないのであろうか.
すばる望遠鏡の広視野CCDカメラでは,1回の露光で100個以上の小惑星が写る.衝突破片である小惑星は様々な形をしているから,自転に伴って変光する.よって,天球上の同じ視野を連続して撮像すると,これらの小惑星の変光曲線が同時に得られることになる.このコロンブスの卵のようなアイデアによって,小惑星の変光曲線の観測は一晩に1個という従来の常識を覆して,我々は一晩に100個近い変光曲線を取得できた.しかもこれらは同一の観測条件の元で得られたものだから,観測バイアスがほとんどない理想的なデータである.約80個の変光曲線を周期解析した結果,直径100m-1kmの小惑星では,自転周期が約2時間より早い高速自転小惑星と呼ばれる天体が30%近くも含まれていること,ほかのサイズの小惑星に比べて,このサイズでは球形に近い小惑星が圧倒的に多いこと,などが明らかになった.これらの事実は今後,衝突実験や破片の形成モデルに考慮されて,やがて正しく解釈されていくと期待される.
【 中村士/吉田二美/ブディ・デルマワン 】