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ニュートリノの質量証明 2017年版(平成29年版)

 ニュートリノは素粒子の一種であるが,電子ニュートリノ(νe),ミューニュートリノ(νμ),タウニュートリノ(ντ)の3種類が存在する.また,それぞれに反粒子が存在し,eμτと表記される.素粒子間に働く力には「強い力」,「弱い力」,「電磁気力」,「重力」の4種類があるが,電荷をもたないニュートリノに働く力は「弱い力」のみである(極めて弱い重力は無視して).ニュートリノが関与する相互作用ではその種類に応じて,電荷をもったレプトンである電子/陽電子(e±),ミュー粒子(μ±),タウ粒子(τ±)が生まれたり消えたりするため,νeνμντを「相互作用の固有状態」と呼んでいる.たとえばβ壊変は,陽子Z個,中性子N個をもつ原子核A(Z,N)がA(Z+1,N-1)になるプロセスであるが,その際にeeが生まれる.素粒子には「スピン」と呼ばれる性質があり,質量をもっている場合には「右巻きのスピン状態」と「左巻きのスピン状態」が存在する.しかし,今までの実験では「ニュートリノは常に左巻き」であり,「反ニュートリノは常に右巻き」であったため,ニュートリノは質量を持たない粒子であると考えられてきた.実際,素粒子とそれらに働く力を記述する「標準モデル」は,ニュートリノの質量がゼロであるとして構築されている.
 3種類あるニュートリノが質量をもつとした場合,質量の種類も3種類あり,それぞれを「質量の固有状態」と呼ぶ.そして,これは量子力学によって可能となる現象であるが,「相互作用の固有状態」それぞれは「質量の固有状態」の重ね合わせ(「混合」と呼ばれる)であることが可能である.ニュートリノが何らかの反応によって生まれる際には「相互作用の固有状態」として生まれる.一方,空間を伝搬していく間は「質量の固有状態」として振る舞うため,質量が異なる場合には伝搬の様子にずれが生じ,ある距離飛行した後には元と異なる「相互作用の固有状態」として観測されることがある.この変化は異なる状態間を行ったり来たりするため,「ニュートリノ振動」と呼んでいる.
 1998年にスーパーカミオカンデ(SK)は,大気ニュートリノの観測によってνμντとの間で振動していることを発見した.大気ニュートリノは宇宙線が大気中で反応してつくられるニュートリノであるが,そのうちのνμ成分が約500km以上飛行する場合にντに変化してしまい,νμの数が減っているようにみえることが証拠となった.その後,2001年にはSK実験とカナダのSNO実験による太陽ニュートリノの観測から,νeからνμντへ振動することが発見された.その後も2002年にはカムランド実験が原子炉ニュートリノを使って,eの振動を明らかにし,2004年には人工ニュートリノを用いたK2K(KEK to Kamioka)実験がνμからντとへの振動を確認した.そして,2011年にはT2K(Tokai to Kamioka)実験によって第3番目の振動モードも発見された.ニュートリノ振動は質量がないとおこらない現象であり,ニュートリノ振動によってニュートリノ質量の存在が実証された.しかし,質量自身は極めて小さいためまだ測定されておらず,今後の課題である.

【 中畑雅行 】

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