2011年3月11日東日本大震災特集 2012年版(平成24年版)
理科年表 2012 年版では、年表として今までにない特集を設けることになりました。 2011 年 3 月 11 日の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)は、あらゆる面で日本の学術や科学、物の見方、あり方を根底から考えさせられるものでした。
「 想像を超える 」 という言葉が適切かどうかはわかりませんが、宮城県沖で生じた地震は M(マグニチュード )9.0 という過去最大級のものでした。それによって発生した津波はまた、太平洋沿岸の三陸地方に襲いかかり、海岸近くのみならず内陸奥部まで入り込みました。その地震と津波のもたらした自然災害は、ただただ自然の力に畏怖の念を抱かせ、科学と人間の持つ力の限界を知らされました。しかしながら、これらのことは歴史的にみれば過去 1000 年に 1 回や数百年に 1 回は起きていることがこの理科年表からも明らかです。それを理解し、自分のものとして現実的な対策を実現し教訓として捉えてこなかったことには大きな反省と責任があります。
また一方、地震と津波によってもたらされた第三の大事故が福島第一原子力発電所の破壊による放射能汚染です。放射能の汚染は半径 20km から 30km の範囲におよび、風向きによってさらに拡大し汚染の実態が明らかになるにつれて、科学的根拠への対応がいかに不十分だったかを思い知らされました。原子力と放射能汚染は情報不足も含めて人災といえるものと考えられ、科学的、行政的対応が必要です。
日本は世界で唯一の被爆国であり、原子力の安全には細心の注意を払うべきところをその経験を活かしきれませんでした。過去には 1986 年のソビエト連邦(現ウクライナ)のチェルノブイリ原発事故、1979 年のアメリカ合衆国のスリーマイル島原発事故の例があるにもかかわらず、その事故の教訓を自分たちのものとして十分に対応していなかったのです。
放射能汚染の除去の問題や汚染物質の処理方法、原子力発電そのものへの抵抗など問題は山積しています。これから放射能とどう向き合っていくのか、エネルギー問題をどうするのか、失われた土地や人命、生物多様性や文化の問題などの反省と今後にむけて復旧・復興と再構築のデザインをどのように描き出す
のか、日本は今、世界の中で注目されつつ岐路に立たされているといえます。
理科年表そして特集ページが問題の提示と解決となり、現状と今後を考えていく正確な判断の助けのひとつとなることを期待しています。
観山正見
( 理科年表 2012年版(平成 24 年版)震災特集より )