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放射線に関する量と単位

 放射線に関係する量は、放射線源放射線の発生源、放射性物質 に関する量と、線源から離れたある場所に到達した放射線の強さ線源からの距離や遮蔽物で変わる に関する量と、人体への影響に関する量に分けられる。

1.放射線源放射性物質に関する量
崩壊定数単位:s-1、m-1、h-1、d-1、y-1 等 ) 放射性同位体の 1 個の原子核が単位時間に崩壊する確率。

寿命単位:s、m、h、d、y 等 ) 放射性同位体の原子核の崩壊定数の逆数。平均寿命ともいう。

半減期単位:s、m、h、d、y 等 ) 放射性同位体の原子核の寿命の log2 倍約 0.693 倍 )。1 個の原子核についていえば、それが崩壊してしまう確率が 50% である経過時間。同種の放射性同位体が多数存在しているときは、その数が 1/2 になるまでの経過時間。放射能 壊変率が 1/2 になるまでの経過時間でもある。放射能が 1/2 になってからまた半減期だけの時間が経つと、さらに 1/2最初の 1/4になる。半減期の 10 倍の時間が経つと約 1/1000( 1/2 ) 10 = 1/1024 になる。

放射能単位:Bq ) 同種の放射性同位体が多量存在しているときの、単位時間あたりの崩壊数。崩壊率 壊変率ともいう。放射能はこの他、放射性同位元素が放射線を出す能力という意味や、放射性物質という意味にも使われる。崩壊率や壊変率には後二者の意味はない。
 以上を式で表すと、以下のようになる。崩壊定数が λ の放射性同位体が N 個あるとする。λ は 1 個が単位時間に崩壊する確率だから、放射能、すなわち単位時間に起きる崩壊の数崩壊率 は、λ N になる。したがって、個数 N の変化は微分方程式
 
に従う。両辺とも負なので、これは減少を表す。放射能は正の量だから、これらに負号を付けた正の量 -dN ( t )/d t すなわち λN ( t ) で表される。最初t = 0 N0 個の原子核があったとすると、時刻 t における原子核の数は、この微分方程式を解いて
N ( t )  = N0et
になっていることがわかる。このとき放射能も
 
に減少している。τ = 1/λ が寿命であり、原子核が 1/e ( 約0.368倍になる時間であるe  = 2.7182818… は指数関数の底 )。半減期 T1/2 は方程式
 
tについて解くと得られ、
 
である。
 なお、崩壊定数および崩壊率という用語は自然科学の多くの分野では同じ意味で、ともに λ を意味する。しかし、放射線の分野では、人体に影響を与える放射能の値自体がその時間変化の割合と同様に重要なので、崩壊率は λN 放射能を意味する用語として扱い、崩壊定数 λ とは異なるので、注意を要する。

単位質量あたりの放射能単位:Bq/kg ) 放射性物質を含む物体の、単位質量あたりの放射能を示す量。放射性物質に汚染された液体の中の放射性物質の濃度を表す場合や、食材に含まれる放射性物質の量を表す場合に利用される。

2.放射線の強さに関する量
フルエンス率単位:m-2・s-1 とエネルギーフルエンス率単位:J/m2・s )
空間のある点での放射線の強さを表す量。放射線が来る方向が決まっている場合は、その方向に垂直な微小面積を微小時間に通り過ぎる粒子数を、単位面積、単位時間あたりで表現した量。放射線がさまざまな方向から来ている場合は、微小な大円を持つ球を微小時間に通り過ぎる粒子数を単位大円面積、単位時間あたりで表現した量。粒子数でなく通り過ぎたエネルギーを表す場合もあり、そのときはエネルギーフルエンス率と呼ばれる。

フルエンス単位:m-2 または J/m2 ) とエネルギーフルエンス 単位 : J/m2
ある時間の間にある点に入射した粒子数またはエネルギーの積算量を単位面積あたりで表現した量。フルエンス率に時間を乗じて得られる。

照射線量C/kgと照射線量率C/kg・s ) ある瞬間に空間のある点にどれだけの放射線が来ているか 空間線量率というを、γ 線、X 線に限って表す量。照射線量は積算量であり、照射線量率は瞬間の量を単位時間あたりで表現した量である。照射線量 1C/kg は、1kg の空気を照射して 1Cクーロンの電離電荷対の電荷を生ずるまでの放射線の積算量である。電離電荷対の電荷とは、生じた電子と正イオンの対の、片方の電荷の絶対値のことである。照射線量率 1C/kg・s は、注目する点に、ある瞬間に来ている γ 線あるいは X 線の強さが、1kg の空気を電離して 1 秒間に 1C の電離電荷対の電荷を生ずる強さに相当することを表す。被照射対象を空気に限定することによって、被照射物への影響ではなく、空間の 1 点に来ている γ 線、X 線そのものの強さを表す。

吸収線量単位:Gyと吸収線量率単位:Gy/s ) 放射線から物体が受けとった 吸収したエネルギーを表す積算量。単位はGy(グレイ)。照射線量と違って、γ線やX線だけでなく、すべての種類の放射線について共通に定義される。定義は
 
で、1Gy は物体内の 1 点が放射線から受け取ったエネルギーが 1kg あたりに換算して 1J ジュールであるような積算量である。1Gy = 1J/kg 。透過力の強い γ 線を被ばくした場合、吸収線量は物体全体でほぼ一様の値を持つが、α 線を被ばくした場合などは一様でなく、表面付近の吸収線量が高く内部は低い。吸収線量に対応する線量率である吸収線量率は、単位時間、単位質量あたりのエネルギー吸収を表し、単位は、Gy/s = J/kg・s である。

カーマ単位:Gy ) γ 線、X 線、中性子線などの電荷を持たない放射線は、まずイオンや解放された電子などの荷電粒子を生じて、それらの荷電粒子の持つ運動エネルギーが最終的に物質に与えられるエネルギーとなる。そこで、物質微小部分微小質量部分で生じた荷電粒子の運動エネルギーの総和を単位質量あたりで表現した量を、カーマという。

3.放射線の人体への影響に関する量
 放射線の人体への影響は、人体が吸収したエネルギーで決まる。しかし、放射線の種類や受けた組織・臓器が違うと、同じ大きさのエネルギーを吸収しても人体の機能や遺伝子に対するダメージの大きさは異なる。そこで、放射線の種類やエネルギーに応じた係数や、人体の臓器・組織による放射線の影響の受けやすさを考慮した係数を吸収線量に乗じた量を考える。そのような量としては、測定のための実用量である線量当量、線質について加重した吸収線量を組織・臓器にわたって平均した等価線量、それに組織臓器の放射線感受性を加重して計算した実効線量の3種類がある。それらは互いに異なる量であるが、単位はすべて Svシーベルトなので注意を要する。

線量当量単位:Svと線量当量率単位:Sv/h ) 線量当量は、当初国際放射線単位測定委員会 ICRUによって定められた、放射線の種類による人体への影響の違いを考慮する線質係数 Q を吸収線量に乗じて得られる線量である。それに対応する単位時間あたりの量被ばく線量率が、線量当量率である。放射線が来ている空間の評価の目的では、これを空間線量率と見なして使用する。すなわち、滞在時間を乗じることで、その場にある時間滞在した場合の被ばく線量を求める。線量当量率の単位時間には 1 時間が使われるのが普通である。国際放射線防護委員会ICRPの 1990 年勧告以前は、この量が放射線防護に関連した被ばく量として使われていた。等価線量や実効線量が使われるようになった現在でも、人体に対する影響を表す唯一の測定可能量である線量当量率と線量当量が、実用量として引き続き用いられている。ただし、線質係数は以前は X 線、γ 線、β 線は 1、他は 10 であったが、ICRP の 1990 年勧告以来、線エネルギー付与 LET、水の中で単位距離あたりに放射線が失うエネルギーL の関数として、

で与えられている。
 線量当量には、周辺線量当量、方向性線量当量、個人線量当量がある。
周辺線量当量 H* ( d ) は、あらゆる方向からある1点に来ている放射線による線量当量を、一方向から来るように整列させたとして、人の軟組織に等価な物質で作られた直径 30cm の球ICRU球に照射したときの、d(mm ) の深さにおける線量当量で表す。通常、d = 10mm とした 1cm 線量当量が用いられる。皮膚や目の水晶体の被ばく管理には 70μm 線量当量も用いられる。方向性線量当量は、線量計の角度依存性を表す際などに用いられるが、詳細は省略する。個人線量当量は、ある期間に個人が被ばくした線量当量を表す量である。板状のファントムに並行ビームが垂直に当たったときの深さ d ( mm ) における線量当量として定義されている。普通は d = 10mm の 1cm 線量当量が用いられるが、目の水晶体には 3mm 線量当量、表層部組織には 70μm 線量当量が用いられる。
 放射線防護関連で使用する空間線量率を測定するサーベイメータ空間線量率計は 1cm 線量当量率を表示するように較正するものとされている。

等価線量単位:Sv ) 放射線が臓器・組織に与える影響を考慮した被ばくの積算量で、実効線量を計算する基礎量であるが、組織ごとの被ばくの管理にも用いる。放射線Rによる組織・臓器 T の吸収線量が DT,R であるとき、放射線 R の放射線荷重加重係数を wR とすると、組織・臓器 T の被ばくした等価線量は
 
で与えられる。wR は、ICRP の 1990 年勧告では、X 線、γ 線、β 線、μ 粒子が 1、中性子がエネルギーによって異なる 5、 10 、または 20、陽子が 5、α 線、核分裂片、重原子核が 20 である。同 2007 年勧告では、X 線、γ 線、β 線、μ 粒子が 1、中性子がエネルギーによって 2.5 から 20 までの値をとる連続関数、陽子およびπ中間子が 2、α 線、核分裂片、重原子核が 20 である。等価線量は計算で求める被ばくの積算量なので、瞬間の量 単位時間あたりの量である等価線量率は考えられていない。

実効線量単位:Sv ) すべての組織・臓器が外部被ばくおよび内部被ばくした等価線量 HT を、組織・臓器の放射線感受性を表す組織荷重 加重係数 wT の重みをつけて加えあわせた量。
 
wT は、組織ごとに定められており、ICRP の 1990 年勧告では 0.01~0.20 の値、2007 年勧告では 0.01~0.12 の値をとる。wT は総和が 1 に規格化されているので、全身一様被ばくのときは、それを考慮しないときの値と同じになる。実効線量も計算で求める被ばくの積算量なので、瞬間の量 単位時間あたりの量である実効線量率は考えられていない。

4.放射能Bqと空間線量率Sv/hあるいは被ばく線量Svの 「 換算 」 に関する量
 放射能と空間線量率、あるいは被ばく線量は全く別の量であるから、その間の 「 換算 」 には意味がない。しかし、ある場所に存在する放射性同位元素からの放射線によるまわりの点の空間線量率を求めたり、ある放射性同位元素を体内に取り込んだときの被ばく線量を求めたりするための便利な係数を同位元素の種類ごとに計算して表にしておくことはできる。それが、実効線量係数、 1 cm線量当量率定数、実効線量率定数などである。

実効線量係数単位:Sv/Bq ) 体内に取り込んだ放射性同位元素の種類とその放射能がわかっているときに、それによる内部被ばくを計算するための係数。内部被ばくは遮蔽が不可能なので、すべての種類の放射線による被ばくを考慮しなければならない。体内に摂取した放射性同位体の放射能は、半減期で決まる速さで減少するが、さらに、人体のさまざまな代謝・排泄機能によって体外に出てしまえば、それによる当人の被ばくはなくなる。そこで、核種の物理的半減期 Tp=上記の T1/2 だけでなく、摂取した放射性物質の一部が代謝・排泄によって体外に出て、最初の量の 1/2 になるまでの時間である生物学的半減期 Tb も考慮した、実効的半減期 Teff を考える。これらの半減期には
 1/Teff = 1/Tp + 1/Tb すなわち Teff = Tp Tb/(Tp + Tb)
の関係がある。当然ながら、Teff は、TpTb のいずれよりも短い。摂取した放射性同位体による被ばくは、Teff を考慮しつつ、成人では摂取したときから 50 年間、子供では摂取した年齢から70歳までの被ばくを積算したものを用いる。これを預託実効線量という。実際の内部被ばくは実効的半減期で決まる期間で減衰するので、このように十分長い期間の積算をすれば、積算期間によらない預託実効線量の値が得られる。預託実効線量は、コンピュータシミュレーションを用いて計算する。その結果が、それぞれの核種の経口摂取と吸引摂取のそれぞれについて、1 Bqベクレル摂取したときの預託実効線量を表す 「 換算係数 」 である実効線量係数として、表にされている。

実効線量率定数単位:Sv・m2/Bq・h )および 1 cm線量当量率定数
単位:Sv・m2/Bq・h ) 放射能壊変率がわかっている放射性同位体があるときに、それから 1m 離れた位置での空間線量率を実効線量率あるいは 1cm 線量当量率で表すための換算係数。( すでに述べたように、瞬間の量である実効線量率は元々定義されていないが、実効線量率定数は計算で求めるものなので、ここには登場する。) 各放射性同位元素について計算され、表になっている。

5.外部被ばくと内部被ばくの評価
 外部被ばくは体の外にある放射性同位体から出る放射線を皮膚を通して浴びることによる被ばくである。α 線や β 線の影響は遮蔽によって防げることが多いので、外部被ばくは γ 線や X 線による被ばくが主になる。これに対して内部被ばくは、食事や呼吸で体内に取り込まれた放射性同位元素による被ばくである。
 ある場所にある時間滞在したための外部被ばくを評価するには、正しく較正されたサーベイメータで空間線量率を測定する。この目的に使う通常のサーベイメータは 1 cm線量当量率を表示することとされている単位は μSv/h、mSv/h 等)。 この表示値に滞在時間をかけると、その滞在中の外部被ばく線量が求められる(単位はμSv、mSv等)。その値が、法律などで定められている規制値やガイドラインの実効線量 単位はμSv、mSv等に対応するとして、評価する。
 内部被ばくを評価するには、食事経口あるいは呼吸吸引で摂取した放射能を計算して、経口、吸引に分けて実効線量係数 単位は mSv/MBq 等をかけて預託実効線量を求める。それを摂取するたびの被ばく線量と見なして、外部被ばく線量と合算して評価する。

【兵頭俊夫】
( 理科年表 2012年版平成 24 年版震災特集より )

 

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